第520話 遠くで思う

「は? バカじゃないの? どこをどう見たらわたしからアンタに敬意を表する理由があるの? もうちょっと考えなさいよ。あ、思考放棄しているからノーテンキにそんなこと言えるのね。みたいじゃなくてバカなのね。勘違いして悪かったわ」

 床にへしゃつぶれたピンク髪の少女を見下ろして言い連ねる。ちょっとくらい酷いかなと思わないでもないけれど、このくらい言っても通じないしなぁ。この若年寄り。

 外見は十になったかどうかの幼い少女。

 私の知る『ネア』よりは身長も高くて年相応……。

 彼女自身は時の流れを意識することはないようだけど、資料によれば八百年以上変わることなく十歳の少女で過ごしてきたようで。だから若年寄り。

 その心は老獪かと言われればどちらかと言えば、能天気にヌケの多いネアより幼い感じ。……マオちゃんやアトマちゃんより幼いんじゃないかな? アトマちゃんはどちらかといえば老獪寄りだと思うけど。

 ピンク髪の少女は『小さな女神』と通いの神司の方々に呼ばれている。

 彼らが訪れている時、私は少女の力によって隠される。

 少女的には私を囲っていることを気がつかれたくないらしい。

 訪れるタイミングは数日から数十日に一度。

 少女の髪を梳き、新しい衣装や装飾品で飾りたて少々凝った料理を捧げる。

 そんな彼らは総じて若くて顔面がいい。

 どちらかと言えばアッファスさんや下のお兄ちゃん系統だ。上のダメ兄とは違うなと思う。

 装いは揃いで髪色は似通っている為、正直言って区別がつき難い。

 隠れて見ていたところ、『小さな女神』に謁見するまでに危険な場所を通るらしく、治らない傷を負った神司のお兄さんは謁見しないものらしい。

 危険な場所って間違いなく迷宮だと思う。

 ピンク髪のの少女は迷宮の女神、『迷宮管理者』という存在だということらしいから。

 存在的にはネアもそうらしいんだよね。

 で、私はネアのやる気を盛り上げるために景品棚に取りよけられたということらしい。

 強者にとって弱者の意思はないも同然って奴よね。やさぐれちゃいそう。

 あの子がだれかと競うために率先して動く?

 うん。

 ないでしょ。

 きっとマオちゃんが「ねーね一番カッコいいよね!」と言って盛り上げようにもネアのことだから「いやん。マオちゃんかっわいー。マオちゃんが一番! 決まってるよぅ」って惚気てる姿が脳裏に過ぎってしまうくらいには。

 くそう。腹立つけど、ネアはそーゆーとこ可愛いしそれがいいんだよね。

 思い浮かべるだけでにやけちゃうじゃない。

 ごはん一緒に食べてくれないって拗ねるネアとかすぐ過ぎっちゃう。

 だから、のほのほ笑っていられるネアを翳らせる理由のひとつに私がなるっていうのが腹立たしい。

「ルカ、神司帰ったから一緒におやつしよ」

 同じ形の新しい服。

 ピンク髪を細かく編み込む細いリボンは艶やかで自分でどうにかする。という当たり前がスッパリ放棄されている。実際髪も装いもどれほど乱れようともピンク髪の少女は自分では何もしはしない。

「すぐこぼすんだから前掛けつけてから食べなさいよ」

「えー。どこにあるかわかんない」

「作ってあげたでしょ。もう。あのへんだったかな?」

「ルカってどうでもいいこと気にするよね」

「どうでもよくない。美味しいものはおいしくきれいに食べたいの。誰かが手間暇かけてるの。雑に扱うものじゃないんだから。そーゆーとこが敬意を払えない一因になってるんだけど?」

「えー。そんなことで? だって雑でいいと思うな。でも、ルカがイヤならすこしだけ努力してあげる。私に前掛けつけさせてあげるわ」

 なんで偉そうなのかな!?

 このピンク髪。


「だって私が名前を呼ぶのも呼ばせるのもルカだけだもの」

 ん?

「なにか言った?」

「ぅうん。早く食べようよ」


「ちょっとは待ちなさい。あー、もうどこに投げたのよー!」

 この若年寄り、生活力の無さがネア以上なんですけど?




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