第521話 ウサギの姿蒸し
内臓を抜いたウサギのおなかに穀類と根菜を詰め、野菜スープを煮込む鍋で蒸しあげるウサギまるごと料理をじっと見守るネア宿屋の厨房です。仕上げに表面に熱した油をかけてから軽く焦がすそうです。美味しそうです。すっごく。
やはり、トルファームと言えばじんわりと焼き上げられた肉汁たっぷりの串焼き肉を唐黍のパンにあぶらを吸わせて食べるアレですよ。アレ。あと果物も多いですし。うきうきしますよね。本当に。
「酒蒸しも人気があるけど、どっちにしろ男衆は肉の部分だけ食いたがるねぇ」
おかみさんが穀物も野菜も美味しいのにねぇと苦笑いをこぼしていますね。肉汁たっぷり吸った穀物ですよ。美味しくないわけがないじゃないですか。
ウサギを蒸すのに使われている野菜スープは市で安く買い集めた野菜と前日の用意された肉料理の残りをぶちこんであるそうです。これまた絶対美味しいでしょう。
お肉はネズミやトカゲ肉の香草塩焼きとかでしょう。もしかしたら昨日の余りのウサギ肉も混じっているかもですね。ウサギとトカゲとネズミは定番だそうですから。ああ、イイですね。
厨房内に『清浄』をかけ、調理用水の壺に水を充し、迷宮支配のプレートにNOをつきつけ、随時増殖する使用済み食器に『清浄』をかけながらの調理見学中です。味見という名のつまみ食いも提供されますよ。
というわけで私に提供される夜ごはんは具沢山スープにウサギの姿焼き(穀物入り)数切れですよ。あと枇杷ジュース。
おいしいごはん時間は実にしあわせですよね。
あとで夜食も貰えるそうです。朝とお弁当は期待して欲しいとおかみさんが笑ってました。実に親切ですね。
宿の食堂のカウンター席のすみっこに座って提供されたスープにスプーンをつっこみますよ。かろうじてカタチをたもっていたお芋や玉葱がほろほろとスープに溶けていきますよ。なんのお肉かわからないくらいにぷるんぷるんの塊は旨みだけがあります。美味しいですね。
とりあえず明日は迷宮『回遊海原』を探索予定ですよ。だって、ほら、しょっちゅうぽこぽこ出てくる『YES』『NO』プレートがウザいのですよ。ええ。とても。
「お、嬢ちゃん、ひとりかい?」
なんか知らない人が横に来ましたよ?
他にも空席はまだある時間ですし、誰かの定席ならお店のお姉さんやおかみさんがなにか言ったと思うんですよね……酒臭いですね。
「いいえ。人を待ってます。向こう行ってください」
明日の迷宮入りにタタンさんが一緒に来るとのことで打ち合わせ予定なんですよ。タタンさんの商業ギルドでの業務終了後に。(明日の迷宮入り休暇をもぎ取ってくるそうです)
人が入りはじめておかみさんもお姉さんも厨房のおじさんも忙しくしてらっしゃるタイミングで絡みにきましたね。どうやってぶちのめしましょうか?
そろそろ相手を確認しておこうかと手をワキワキさせていると後ろから声がかかりましたよ。知らない、若いお兄さんですね。先に声をかけてきたのはすこし経験のありそうな兄貴って感じのオッさんでした。たぶん。で、誰、あんた?
「お待たせ。明日の打ち合わせテーブルを借りとけって言われたから席移ろう。デリダ、彼女の食事動かしてくれる? あとタタンさんと兄さんが来るから杏酒みっつとつまみオススメ一盛りよろしく」
「りょーかい。先に移動してらっしゃい。すぐ持ってくから。はいはい。そっちの酔っぱらいはあんまり他のお客に絡むといい加減出禁にするんだからね」
朗らかな笑顔とのびやかな声で男をあしらって私が移動しやすくしてくれる店のお姉さんですよ。
でも、あちらの彼も知らないんですけど、タタンさんの名前が出たんですから、大丈夫ですかね?
移動したテーブルにお姉さんが私のごはんセットも置いてくれましたよ。あ。お肉がちょっと増えてる。
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