第518話 見たい未来

 正直なところ、私は『私』待ちのつもりだったんですけど、そーも言ってられないっぽいなと思う迷宮管理者ネアですよ。

 いや、放り出しておきたいですけどね。

「放置で問題はないと思うよ。リトルスイーティ」

 ティカちゃんの言葉は私になにをしたいのと問うとても大事な言葉だったと思うのです。

「この世界を維持する方向に調整してネイデガート嬢が踏み切れさえすれば自消上等と考えている時点で放棄放置方針なんだから。プティミーア、君が悩むことじゃないと思うなぁ」

 ……。

 あー。

 もう!

「ソウガうるさい。それでもやっぱり気になるの!」

「なら、影響を気にせず好きに動けばいいと思うよ。私の一番星」

 にこりと笑うソウガはのっぺりと生きた表情ではない。

 顔の部分に張り付いているのは赤い刻印を描いた一枚布だから。刻印が意味しているのは『月』なのだと以前教えてもらった。それでも『喜怒哀楽』はわからせられるのだ。『笑っている』『怒りを持って睨んでいる』『悲しんでいる』『楽しげ』変わり映えのない刻印の顔で、それが理解できる。……妹はにこにこしながら私の劣る部分を教えてくれたから、いつだって混乱した。ソウガはそれよりもずっとわかりやすいのだ。

 ユーザーフレンドリー性は悪いが機能には問題ないので外見にはリソースを払わないよ。とちょっとわからない呪文で説明された。まぁ、ワームで動いているんじゃないんならかまわないと思う。

 つまり、ソウガも『面倒な労力』は忌避する傾向があるのである。

 基本的には『効率優先』ぽいけど。

「なにが気になって、どう行動したいのかを教えてくれれば私も考えるよ? マイディア」

 んー。

 なんというか違うのだと思う。

 説明はできないし、どうしたいかもわからない。

 薄ぼんやり違うのだとだけ感じるのです。思うにも至らないけれど、違うという感じですね。

「……私のしたいことは、おともだちや家族がしあわせに健やかに過ごしてくれるコト。それには世界が壊れてはいけないのですよね」

 ええ。それは確か。

 だから。

「ええ。だから、ティカちゃんにはちゃんと家族のもとに戻れてほしい。私、ティカちゃんのお父さんもお母さんもお兄さんお姉さんも、ええ。好きだもの」

 おっきいお兄さんはよくわからないけど。あの人今どうしているんだろ?

 今はおいておきます。

「あと、グレックお父さんとマオちゃんにはしあわせにしていてほしいなぁ。『妹』ってすこし苦手だけど、マオちゃんはマオちゃんだし、やっぱりかわいいんだもの」

 どうふるまうのが良いことに繋がるのかがこれっぽっちもわからないのが難点ですけど。

 私の目に映る今の周囲が優しく柔らかいモノだと感じているのは、バティ園長やソウガ、エリアボス蛇をはじめとする周囲の人員による配慮だと私は知っています。

 力ある彼らが私にイヤナモノを見せまいとすれば当然に私の目からは隠されます。

 そこにある踏み躙られた残骸。私は思うんです。それはかつての私であり、それを看過したいのかと。

 手を差し出したい思いももちろんあります。けれど、同時に『なぜ?』とも思うし、振り払われるのもこわくあるのです。

 同じくらい、私が勝手に動くんだから相手の感情なんて知らないわ。とも思ってしまうんですけどね。

「世界がこれからも壊れず、続いていって、『私』やマオちゃんが自分で好きに生き方を選び取れればいいのよ。あと、リリーお姉ちゃんとアッファスお兄ちゃんの結婚とか赤ちゃんとかは見たいと思う!」

 いや、絶対かわいいよね?


「つまり、あらためてリエリーとアッファスと交友関係を築きなおしたいということかな。妬いちゃうな。スィーティ」


 は?

 あ、そうですね。私、『ネア・マーカス』ではないですものね。

 そう、ですね。

 初対面になっちゃうんですね。





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