第517話 ダメ出し
「え。いまさら?」
お部屋で休息中のティカちゃんにサクッとトドメを刺された迷宮管理者ネアです。
「私でわかっている範囲はね」
読んでいた本を棚に差し込みながらティカちゃんが語ります。
「たぶんよ。たぶん。私はね『外見』を基本的に維持してるんだと思う。だから迷宮管理空間のこの特別な部屋の外で存在を維持できないからこそ部屋から出ることに対してとても忌避感を抱いているわね。外見の年齢は本来ならこうあったであろう十五歳だと思うわ。ネアは私の存在維持を考えた魔力供給をしてくれているからだと思うわね」
ぉ、おう。
難しいこともさすがティカちゃん、理解している。
「実際に様子がわかるわけじゃないけれど、天水様経由の『ちゃんねる』から情報を拾う限り」
え。
あそこからどれくらいの情報が拾えるの?
「迷宮学都にいるティルケは外にはいるけれど、活動には不向きっぽいわね。もしかしたらあの『ネア』が私を自由に動かすことを嫌がっているのかもしれないわね。うっすら感じるのはアレ、私の押しの弱い部分が詰まってる気がして腹がたつわ」
え。
遠くはなれた自分自身に怒りを抱かないでください。ティカちゃん。
「たぶん、たぶんね。学都の私は学都の『ネア』の心配をし過ぎているのと、見捨てられると死ぬしかない環境が不安で動けないんじゃないかと思うわ。私、不自然なほどそーゆー不安持たないし」
そう、ウチのティカちゃんは持っていたスキルも技能も身体的能力値も持たず、エリアボス蛇のひと撫でで消失してしまいそうなくらいか弱いです。
「あ。私の弱体状態にあのエリアボス蛇さんのひと撫ででって説明はやめなさいよ。ひとなでに耐えることができるのはそれはすでに優秀な戦士よ」
あ、そうですか。
じゃあ、茶鯖蛙?
「フロッグもフロッゲーも強いわよ? ネア、雑魚魔物の基準間違っているし、エリアボス蛇さんを雑魚魔物の範囲に入れるのはダメだと思うわ」
新しい本を選んで腕に抱えたティカちゃんが定位置になっている鳥の巣クッションに戻ってきます。
お世話係のてぃーさーばーふろっがー(純白)がちょいちょいと背もたれやショールを調整して、ティカちゃんがそれにお礼を言っているというほのぼの空間ですよ。ほっこりします。
「だからね。ネアは考えなし過ぎるのよ。私を回収してしばらくは魔力不足や負荷もあったでしょうからわかるわよ。でもね、対策するべきと思いつつ、『面倒だな』って目を逸さなかったってちゃんと目を見て言え……目を逸さないの! んっもう」
叱られましたね。
「なににやにやしてるのよ。もぅ。しかたないんだから」
にやにやしてましたか?
自分でほっぺぐにぐにしますがよくわからないですよ。
ティカちゃんは気にした風もなくてぃーさーばーふろっがー(純白)にお茶を淹れてもらっています。
香辛料たっぷりのミルクティーだそうですよ。
「それで、海むこうの迷宮管理者に連れていかれたって話の私なんだけどね、考えるにちゃんと外で活動できるティルケなんじゃないかと思うの。ただ、『ちゃんねる』に映ってもわからないくらい外見がズレている可能性があるんじゃないかと思うのよ」
外見がズレている?
「一年に一度大きく成長するでしょう?」
あー。
はい。大越でグッと身長が伸びたり髪が変色したりしますね。
髪の色はよく通った迷宮の色が出たりするそうですよ。
『蒼鱗樹海』の色は黄色と青。
『天水峡連』の色は白と銀。
『魂極邂逅』は黒と緑。
『ティクサー薬草園』は茶色と緑。
ティクサーでは今茶髪で緑の目の子供が増えているそうですよ。
「つまりね、その間、この辺りじゃなくて遠い場所で関係性の薄い迷宮からだけ影響を与えられて変色変質しているんだと思うわ。面白いわよね?」
それは、面白いことなの? ティカちゃん。
「私だって成長環境がこう特異化しているんだし、受ける影響は外で不特定多数から受けるものとは違う成長していると思うわよ? どれかの私が適正にまともな常識拾っててくれるといいなって考えちゃうくらいには」
あ。
うん。
「常識とは遠いよね」
「ネア、謝っちゃイヤよ。それに心配しないで。時々バティ園長も来てくれているし、天水様の『ちゃんねる』から判断できることも多いんだから。タガネさんに『ノロイゴ』なんて単語教えられて思い詰めちゃった?」
けろりと笑うティカちゃんに頷いておく。
ノロイゴはきっと呪い子だと思う。そんな不穏な呼び名は好きじゃない。
「そーね。どっかの私は恨んでいるかもしれない。私にはわからないからなんとも言えないわ。でも、私にわかっているのはね。ともだちに見捨てられていないのなら、私はこわくないわ」
みすてる?
「大好きよ。ネア。心配しないで。学都の私も海むこうの私も……うん、タガネさんの話の感じからして見捨てられている感じじゃないし。いや、関係性が想像できないんだけど。大丈夫だと思うわ!」
あー、そんな雰囲気だった?
「大事なのか、気になるのかわからないけど、消したくないから『生きる』魔力を注ぐんだし、変質が大きいならそれはそれで元気なのよ。ね」
ああ、もう。
「ティカちゃん、モテモテね」
「でしょ。そんな私の一番のともだちはあんたなんだからね」
てぃーさーばーふろっがー(純白)がちょっと不満そうに『げー』と鳴き、「あんたは五指には入るわよ」と宥められてご機嫌になっていましたよ。
「うん。大好き。ティカちゃん」
「当然だわ。で、するべきこと、わかってるの?」
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