第515話 エリアボス蛇ぐるみ飛ぶ

「ネア・マーカスは帝国の迷宮学都を行動起点にしているはずですよね」

 さぁ、聞いてあげましょう。タガネさん。

「いや、ちょい待ちぃ。なにあっさり管理空間に招待してくれてはんの? ネアちゃん、もうちぃーっと防衛つーもんを考えなあかんで?」

 え?

 どうして呼びかけに応えておはなしの場を設けたら叱られているんですか? 展開がよく理解できない迷宮管理者ネアです。もちろん、タガネさんなので話をきいてもいいかなと思ったに決まっているじゃないですか。

 なのにどーして叱られてるんでしょうか?

 あと、外見はちょっと違うと思うんですけど?

「……おっちゃんが知っとるネアちゃんの雰囲気を持っとるんは今、目の前におる嬢ちゃんやからなぁ。別人ゆーにはムズイわ」

 ムズイ……。

「難しい、ゆーとんや。むず痒いやあらへんからな?」

 そ、

「そのくらいわかってますよ」

 たぶん。

「嘘くさ!」

 タガネさんが雑に酷いですよ。

「ま、ええわ。学都の『ネア・マーカス』色落ちしてんな思うとったが、黒はネアちゃんの色か」

 は?

 ああ、私の髪は黒ですからね。『私』がいなければ深緑は抜けてますね。そう言われれば。まぁ、現状私に生身が存在しているのかどうかが一番の疑問だったりするんですけどね。どーせならもう少し全体的にお肉つけたいですよね。全体的に。

 肋が浮いているというほどではないんですが、ええ。もう少しふっくらと皮の下に柔らかいものが欲しいです。切実に。あ、ワームを仕込むのはナシで。

 というか、『私』と私の外見に齟齬が出てるんですね。それだけ『別人』ということでしょうか?

 転生した私自身ではなく、私が『私』に憑依していたという状況だったことのようですね。

 つまり、魂の結びつきがさほど強くないということですか。ダンコアちゃん達とは結びつきが違いますからね。増えなくてよかったというべきか、少し寂しいというべきか悩ましいです。

「あー、うん。このきーてへん感じネアちゃんやわぁ」

 なにで判断してらっしゃるんですか。タガネさん。


「そのへんはま、どっかおっぽっといてちーっとおはなししよかー」

 見えない荷物をぽーいと背後に投げる動きをするタガネさんの背後でカエルがキャッチして羚羊と『見えないけど、落とすなよ』ゲームをはじめましたよ。そっちを見てしまったタガネさんの眼差しがなんとも言えませんね。あ。

 エリアボス蛇ぐるみを見えない荷物のかわりにしはじめましたよ。エリアボス蛇ぐるみ落としちゃイヤですよ。

「話題が物理になりよった……」

 は!

「おはなしでしたね」

「ぉ、おう。んで、ネアちゃんはネアちゃんでええんか?」

 えー。

 なに今更気にしてらっしゃるんです?

「個体名の呼び方はそれぞれが認識できれば問題ないのではありません……」

 かと言おうとしたタイミングでカエルが『げーっ』と水砲を羚羊たちに!?

 なにやってる……ん、シロちゃんもクロちゃんも対応問題なくエリアボス蛇ぐるみをぽんぽんしてますね。カエルを煽るように。ケンカしちゃダメですよー。戯れているだけでしたね。

「ただの呼びかけに意味はうす……、攻撃行動はやめておいてねー」

 またカエルが『げーっ』と水砲を放ったので一応注意しておきます。羚羊ぁずも肉盾やめよ。肉(加工肉)盾は。

「まぁ、ネアちゃんはネアちゃんやね。あと、名前、呼び名は大事なもんやさかい、あんま否定するもんやあらへんで」

 そうなんですか?

 ああ、でもわからなくもありません。

 役立たずと言われ続ければ、そんなものだと思ってしまう。きっと、そんな感じのことなのでしょう。

「タガネさんの呼び名も大事なものですか?」

「おっちゃん? せやね。ダチにそう呼ばれんのはええもんやからね。ネアちゃんに『タガネさん』呼ばれんのも好きやで。ネアちゃんはどない?」

 そう、ですね。

「タガネさんに『ネアちゃん』と呼ばれるのは好き、ですね」

 私にはタガネさんが敵性存在なのかどうかも判断つかないんですけどね。

 タガネさん個人は好きだと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る