第514話 『蒼鱗樹海』の七階層
迷宮管理者ネアです。
ネア、ただいま苛立たしげにエリアボス蛇(尻尾でバトル)を躱しているタガネさんを眺めています。
ええ。
ちょっと私も忘れ気味ですがエリアボス蛇はおっきいんですよ。以前は蛇体を幾重にも積み重ねうねって私を座らせる椅子になっていましたが、今では筋肉を動かして壁の一部を座れるようにしている感じなんですよ。(別に他の椅子に座っても私はかまわないんですがエリアボス蛇はお茶会以外では他の椅子を弾き飛ばしちゃうんですよね。なんで?)
エリアボス蛇の尻尾攻撃と周囲をぞろりと取り囲む森林狼(蛭とノミの隠れ蓑。切り付けるとブワっと襲ってくる)を器用に躱していくタガネさんですよ。けっこう薄汚れてますね。
五階層の温め湿地層の後に六階層・極寒層を越え、この七階層はじめっと湿度高めの森林層ですから体感的には気持ち悪いですよね。気温変動は負担でしょうね。
それに各層探索には時間かかりますしね。アドレンス王国国土とほぼ同じ範囲ですし。
七階層の森林層は泥の層に樹々の生えた浮島がふわふわしているんですが、主にエリアボス蛇がその黄色い蛇体を用いて壁や崖の地形を偽装しているそうです。
気を抜くと戦いながら現在地点がざくざくと変わってしまうというか流されてしまうそうですよ。
エリアボス蛇、三階建の宿屋ぐらいの太さがありますからねぇ。
ぎゅっと抱きついたら壁に体当たりした気分になれるんですよね。壁に。
エリアボス蛇からの抱きつきは圧死してしまいそうでお断りしています。私が抱っこできるのはエリアボス蛇ぐるみくらいでしょう。さびしそうなかなしそうな目で見てきても妥協しませんからね。ええ。妥協しませんよ。撫でるだけではダメですか?
そしてふわふわ浮島に生えてる植物、これが金ピカ貴石や輝石なんですよ。ええ。ものすっごく眩しいですよ。
「なんで、こんな光景に……」と呟いたらみんなから『え?』ってつっこまれたのでたぶん、私が見たいと言ったんだと思います。
『あー、蛇の旦那は会話でけへんの〜?』
ひょいひょいエリアボス蛇を回避しながらタガネさんは周囲を観察しているようです。
『デカ過ぎて聞こえとらんつーこともあらへんやろしな……あ!』
勢いをつけてエリアボス蛇の体を蹴って上から尻尾への攻撃……。
『….…ぅそぉん』
この時点で蹴った壁がエリアボス蛇の一部だと気がついたようですよ。
『マジか。ないわーまじないわー』
タガネさんは愚痴りつつ口元を覆う布を軽く払うと隙間からぼとりとヒルが落ちる。たぶん狼を何体かぶった斬っているんだと思いますよ。
この七階層には他にエリアボス蛇の分体(巨体)が二体いて巡回していると資料には記載されています。一体が討伐されたら安全区画を除いて階層すべての浮島が反転して泥と蛭とワームの楽園になるそうです。
ただ、現在タガネさんを翻弄しているのは明らかにエリアボス蛇本体ですけどね。
タガネさん、ソロで七階層最奥に来てるということはやっぱり周りのヒト達は迷宮成長を考えて先に進んでいなかったと考えるのが正解のようですね。
迷宮にみなさん慣れてるわけですし、当然だと思ってはいますが。……対迷宮と考えるともう少し戦力を上げるべきでしょう。
タガネさんがせっかく階層突破してくださったんですし、踏破経路の解析と対策をはかるべきですね。
『ちーぃっと、上とおはなししたいんやけど〜?』
器用に避けながらタガネさんが声をあげています。
そういえば、タガネさんは刻倉くんとも交流していましたね。迷宮核と交流が目的。ということですか?
ちなみにエリアボス蛇は攻撃を激化させていますね。忠誠愛かわいい。
情けなさげな声をあげて跳び避けているタガネさんはまだ余裕がありそうですね。
『おっちゃん、ネアちゃんにおはなしあるんやけどー! きぃてぇくれるとうれしいんやわぁ! つーか、聞けや!』
え?
ご指名?
え?
でも、『ネア・マーカス』は迷宮学都にいますよね?
え?
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