第510話 天水峡連の一角で。
現在地点は『天水峡連』のどこかとしか言えないでしょう。
思わぬ事故で奥へと流されたのは不覚でした。
「テ、テリハ。大丈夫か? 安全区画はもう少し先だから」
おずおずと素人くささの抜けない男、迷宮内で遭遇した彼の名はフレッド・ケチャ。見せてくれたステータスカードによると強くもないけれど、最低限はなんとかなる系のそれなり冒険者でした。私のよーな腰掛け冒険者とは違うようです。私は商業ギルドの事務員が主職ですからね。
「ありがとうございます。ケチャさん」
受付業笑顔ですよ。
「フレッドでいいってば。おれも出口わからないからなんなんだけどさ」
「遭難者同士ですね」
お互いににこりと笑ってほのぼの……していられるわけもなくお互いにため息をこぼすのです。
「こ、この先の安全区画は馴染みでいろいろ揃っているから、えっと、なにか情報が入ってくるかも、だから、えっといこう。テリハ」
疲れたのなら手を引こうかとばかりに手を差し出してくる(差し出す前に服でめちゃくちゃ手を拭ってた。いや、服自体がもう綺麗じゃないよね?)姿から気の良さはうかがえる。下心があってもその時は雷撃でも喰らわせればいいかと思いながら安全区画を目指すことに。……カエル出てこいよー。
たどりついた安全区画はいろいろとガラクタが散らばった小汚い場所。簡易のかまどに金属棒を重ねた網のような焼き場。土瓶にあまり綺麗とは思えない水。
今にも取っ手がはがれ落ちそうな金属カップ。砂にまみれたなんか布。
居住区画というか、巣という感じである。
うん。
「フレッド」
「え、なに?」
「掃除、しましょう」
綺麗なら回復速度早まるかもだし。
「荷物袋は無事だからいくらか私も道具提供はできるんだけど、この環境じゃ汚れるだけだし? まず、キレイにしましょ?」
「掃除……」
フレッドがきょとんと安全区画内を見回す。
いや、汚いからね。
「安全区画をキレイに使うことで迷宮からの恩恵があるという情報もあるし、砂っぽい場所に寝具用の外套を広げるの嫌だなぁって」
ワガママと言われても清潔さは健康に通じるからね! 説得されて!?
「えぇっと、『清浄』っと」
フレッドがおもむろに『清浄』を唱えると安全区画は整理整頓はされていないなりに綺麗に。
使えるなら使っといてよ。と思わないでもないけれど。
「すごい。『清浄』をここまでの実用レベルで使えるなんて!」
褒め称えておきましょう。快適さは大事ですから。
「え、そ、そうかな? あ、あと、水は魔力が戻ればそれなりに出せるから」
意外と使える?
私、結構幸運?
「ほんと!? 嬉しい。荷物袋に食べ物入っているはずだから確認するね!」
ギルドから委託されている販売物資に手をつけるのは最終手段として個人資材確認しないと。
ええ。この生活が長く続くなんてその時には想定しているわけもなく、商業ギルド名義の販売用資材にも手をつけたわ。
魔核での支払いは可能でしょうけど。
フレッドも私に慣れて吃らなくなり、迷宮内で安全に魔物を狩って日々の食糧を得て少し足を伸ばしては生活備品を足していく。
拠点は気がつけば家になっていた。
周囲の魔物は槍を持つネズミ。麻痺の花粉を振り撒く移動植物。急流に潜む肉食魚と巨大な白鰐。あと数種の蟲型の魔物たち。
それなりの食料と資材、スキルギフトが獲れた。
二人で活動していると先には進めないものの生活は安定してしまったのだ。
安全区画での魔力回復量は綺麗に使っているとやっぱり増えたし。
フレッドは中近距離物理攻撃者だし、私は中遠距離の魔力攻撃と補助者でものすごくバランスがよかったところが大きい。
おそらく出入り口に繋がっていそうな通路に陣取る白鰐(別個体)は全然倒せないんですけどね。
ところで『配信ちゃんねる投写』というギフトスキルをフレッドが持っているんですが、『天水峡連』一階層でのリアルタイムが魔力ある限り鑑賞できます。
なんですか。この娯楽付き迷宮監禁生活は!
『敵性迷宮間者監禁完了。観察ちゃんねるほーえーちゅ』
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