第506話 オッちゃん困るわぁ
「なかなかけったいなことになっとるなぁ。オッちゃん吃驚やわ」
タガネさんが蔓植物を薙ぎ払いながら迷宮内を進みます。
『ティクサー薬草園』経由の『蒼鱗樹海』は人が少ないですね。というか、なんでルートを見つけるんでしょう。タガネさん。観察者ネアです。
「すごいですね。ここ、『蒼鱗樹海』の三階層だそうです」
アッファスお兄ちゃんが草地と思って踏みこんだ場所が水に沈んでしまい、心持ち慌てていますね。
『蒼鱗樹海』の三階層は水源地洞窟型。薄暗い洞窟。場所によっては集まった土の上に微光で育つ草が繁茂しているのですよね。
水深はアッファスお兄ちゃんのふとももまでくらい。金属と革で組んである装備のせいで大変そうでした。
ネイデガート・ロサも慌てて現状復帰のスキルを使用してアッファスお兄ちゃんを綺麗にしたり、助けたりしていましたよ。
「ありがとうございます。ノヴァ様」
「いえ。パーティでは協力するものです」
アッファスお兄ちゃんがにこやかにお礼を言い、ネイデガート・ロサ(ノヴァ?)が少し困った風に返していました。
なぜにご一緒行動?
そのあたりは不明ですね。
「助けていただいたのですからお礼は言わせてください」
「環境への鑑定が行き届かず、危険に晒したのに?」
「ちょい待ち坊ちゃん、あかん。あかんでぇ」
アッファスお兄ちゃんとネイデガート・ロサ……面倒くさいですね。どうしても妙なモヤッとした不快感がついてきてしまうのでノヴァと認識しておきましょう。ステータス情報ではネイデガート・ロサ(愛称ノヴァ)となっているっぽい感じですね。
偽装を剥ぎ取ってもステータス上のノヴァの名前はネイデガート・ロサ。
つまり、彼にはそれ以外の自分の名前の存在を知らない。それ以外では呼ばれていないということです。
ステータス情報はカード化する時に気合い入れて偽装はできますからね。
ネアが五歳の時にティクサーでカードを作成した時に『ネイデガート』の名を残さず愛称であった『ネア』を主張し、他の情報を私は知らない。という喪失状態するという事で誤魔化しきった実績があります。私は『ネイデガート』ではない自認ですから当然ですね。
バティ園長によると当時アドレンス国には迷宮がなく、教会に設置された情報蓄積と通信用の魔道具では調査がほぼない状態であったため可能だっただけだそうです。
よくわかりませんが出来たんだからいいんです。
ええ。
たとえ魔力のごり押しであったとしても。殴り勝てばいいんですよ。
「クソつまらん事で迷宮で揉めとったらワヤやわワヤ」
タガネさん、それものすごくわかり難いです。
アッファスお兄ちゃんもノヴァくんも微妙な表情ですよ。
「責任は大切だと思います」
「もちろんや!」
タガネさんの返事にノヴァくんが困惑を深めますよ。
「ええか。迷宮に入るっつーのは己がタマの責任は自分でとるんや。他の誰かが背負うもんちゃう。やれる事は重要やけどな。オノレのタマの管理は自分や。他ん奴に託せるもんやないわ」
「こういう場所で年長者のタガネさんに判断の主軸を任せると判断しておくのもまた自己判断ですね。ノヴァ様」
「選ぶんは自分やからな。オッちゃん、いちおーは保護者っぽいもんやる気はあるけどなー、ついてこんのやったら知らんし、不満も声に出さにゃ知らんけどな」
タガネさん、こーゆーところ自由人ですよね。
「……選ぶ……」
「坊ちゃんは自分で選んだんやろ? 『ネア』を知ってみたいって。育った土地に生じた迷宮にふれてみたいって」
ん?
ノヴァくんの知りたいこと?
「……はい。私は、そう私はきっと本当のネイデガートではないのでしょう。もうじき十五の年を迎えるのに迷宮の声のひとつもひろえない。帝国の迷宮も、そして、通り過ぎた国の迷宮も迷宮核に触れても何も感じられない。私はネイデガート・ロサとしか自分を認識できないのに、私の個人素養はロサの当主として相応しくないことしか示していないのです。ロサの当主として私では迷宮達を管理していくことができるとは思えない」
あ、アッファスお兄ちゃんとタガネさんが唐突な告白にドン引きしている。
「叔父上……いえ、公爵代行はその姫を私と結ばせる事でロサの血を繋げるとお考えのようですが、明らかに本物がいた場合、彼の立場が問題になってしまう」
ぉおう。
私が殴るしかないと考えているロサ家の大人男性に対する擁護意見だ。
偽物をたてたロッサさんは問題だよね。どう考えても。
『ネイデガート』を追い出したのは確かにロッサさんだったし。
両親の帰りを待っていた『ネイデガート』に父の死を伝えて、ゴミのように追い出された。というのが『私』が認識している事実。
個人的に叔父というものにいい印象を持っていない私はありがちな、というか、私の人生ってそういうものなの? と納得してしまった部分もある。
「生かしてもらった恩は返したいんです」
それがノヴァくんの目指したいところかぁ。
そうだよね。
私もマコモお母さんは擁護してしまうし、育ててくれた大人は、きっと特別ではあるんだろうな。
「ぅわぁ。思わんとこで似とるわぁ」
タガネさんがむっちゃ小声でもらしていましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます