第505話 時は流れてる

 まわせ。まわせ。

 魔力をまわせ。

 ぐるぐる。ぐるぐる。魔力をまわせ。

 迷宮に魔力を回す。

 迷宮の強化。迷宮と迷宮が起こす共鳴も呑み込んで魔力を回す。

 不均衡は慣らされて調和のとれた迷宮が外へと影響を与える。

 まわせ。まわせ。

 魔力をまわせ。

 不協和音が消え失せるように。

 それが我ら迷宮管理者の在り方。

 世界を維持する在り方。


 魔力を回すことに不満はない。

 琥珀の塔の塔主は世界を維持することに執着しているし、私は迷宮に愛着はあるけれど調和に興味があるわけではない。そしてもうひとりの『私』も維持することに執着を持てているのかが実に疑問。

 世界の維持を重要視している管理者は実のところ少ないのではないだろうか?

 私?

 私は維持して欲しいけれど、ここからいつ消えてもおかしくない存在だし、それを担うのは荷が重いでしょうね。


『大切を知るならわかるでしょう』


 琥珀の塔の塔主はそう思念を伝えてきますが、『大切』を知っていた管理者を敗北させたのが前回のオマツリなのではないかと私は愚考します。

 実力が不足しているのなら仕方がないことなのでしょうが、まぁ、残念な結果だったかなと。

 琥珀の塔の塔主と私は『世界の維持』という大枠で同意というか方向性は同じです。

 もちろん、私個人に世界を維持し得る魔力は本来存在しません。

 不本意ながら、壊すに足る破壊者との縁故は持っているわけですが。

 世界を維持して成長させるには魔力が必要で、その上で固定された魔力だと循環が崩れ、成長が一定で到達、瓦解に向かう。ので、同タイプが勝ち抜くことは推奨しないとかほざいたんですが琥珀の塔の塔主。

 それ自業自得ですよね。ついでに被害大き過ぎでは?

 私は、『私』が『世界』を愛せれば良いとは思うんですが、ちらりちらりと届けられる情報からは地味に癇癪起こしている様子がうかがえてとても心配です。

 理解できる『あたりまえ』が私と『私』では違うせいも大きいのでしょうが、私がそのあたりまえの差異をあまりにも理解できていなかったのもあるのだと思います。

 マコモお母さんにも愚かと言われた私ですからしかたないことですね。

 なにか気づきが足りないのでしょう。



 迷宮に大きな魔力が触れる気配に『ちゃんねる』を合わせます。

 管理空間に浮かぶスクリーンには相変わらずチャラい感じのおにーさん。タガネさんが映っています。後ろに連れているのは、あ!

 アッファスお兄ちゃんですよ!

 わぁ、なんだか久しぶりに見た気がします。

 元気そうで嬉しい!

 あー、リリーお姉ちゃんはご一緒ではないようですね。

 リリーお姉ちゃんはご一緒ではありませんが三人パーティと少人数制のようです。タガネさん、アッファスお兄ちゃん、そして水色の髪の男の子とご一緒ですね。見たことがあるよーなないよーな?

 えーっと、迷宮は、『蒼鱗樹海』のようですね。

 魔力をそそいで『ちゃんねる』を固定化。音声情報も拾えるように調整を。

 管理者としてタガネさんを視るとその魔力の高さ強さがイゾルデさんや各町の警備隊長さんにも負けてはいないことがわかります。

 複数の迷宮核に触れある程度自身の強さを隠蔽できるだけの強さがあるようです。強者が侵入すると迷宮の防衛観点から通知がくるのです。基本は各迷宮核迷宮主にお任せですけどね。

 アッファスお兄ちゃんが水色の髪の男の子を『ロサ次期公爵』と呼びました。

 もうひとりのネイデガート・ロサは瞬間、苦い表情を噛み殺して笑顔でお兄ちゃんに応じていました。

 隠蔽と偽装のむこうがわ。

 管理者の眼が剥ぎ取るのは簡単過ぎて、私は見たくはなかったなと思うのです。


 なんていうか、なにも気が付かずに魔力をぐるぐる回していたかったなぁと遠い眼を虚空に向けてしまいますよ。


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