第503話 納得も理解もできない
ソウガが機嫌良く『蒼鱗樹海』に力を注ぎます。
いろいろ立ち動いているようですが、私には報告がありません。
解説を求めれば応えてくれるのでしょうが、それを私が理解できるかどうかはまた別なのですよね。
並行世界とか時系列の歪みとか時空間の揺らぎの数値化だとかよくわからない呪文を紡いでましたよ。
ですから、聞けば説明してくれるのですが、私から聞かなければ『雑事』として説明をしてくれないのがソウガですよ。
「本来の流れがあるとして我らが介入したことで流れから外れた分岐世界の歴史へと移行してんですよ。スィーティ」
ソウガは独特の呼称(安定しない)で私に呼びかけてきますよ。
つまり、この世界の時の流れの先に私たちが産まれるにしても、ソウガの影響力の強さでまったく違う世界になった可能性があり得るということですか。と聞けば、生ぬるい表情で「まぁ、その理解でよいかと。円環のループである可能性もありはしますが、この世界はリトルキティの生まれた世界とも私やダンコアの生まれた世界とも異なる泡沫のような不安定な世界ですね」とのことです。
ほーまつってアレですよね。水中の気泡みたいな印象であってますよね。
それほどにこの世界は脆いと言いたいのでしょうか?
「プティミーア、この世界の空は迷宮影響が支配している」
はい。そうですね。
「我らが出会った地では空の果て星海の彼方にかつての故郷への道筋は存在していた」
星海の彼方ってなんですか?
ネアにはよくわからないですね。
まぁもう少し説明してくれたんですがよくわかりませんでした。
「夜空を見上げて星を見た時、同じ星を見ていたかも知れないが、この世界では同じ星を見ることは有り得ないということかな。私の希望」
ソウガはそう言って締めくくりましたよ。
同じ星を見ることができる……星は空にいくつも瞬き流れて季節の移ろいを人の行く末を示すモノですよね。
人ひとりに星が定められているのですから、その人が没すれば星は空から落ちてしまい、時の彼方の世界で生まれたのなら同じ星を見ることは叶わないものではないのでしょうか?
私も疑問を口にしませんでしたし、ソウガもにこりと柔和な表情を崩すことはありませんでした。
『常識認識格差思想是正超難』
天水ちゃんがぽつっと発言をしていましたよ。
『空を彩るものも迷宮の運営に有益な影響に過ぎませんからね。ただ、異界の叡智を抱く者による影響は少なからずあるのは確かでしょう』
話題にはあげたけれど、問題というか主題は『しあわせを維持できる世界』です。
泡沫の世界だとソウガたちが語る世界でも、私はマコモお母さんグレックお父さんマオちゃんにティカちゃんがしあわせでいられる世界を希望しているんです。
一番大事なことはソウガ含む干渉してくる私の保護者どもを納得させつつこの世界を維持すること。
「変えるのも維持するのも生来この世界の住人であるべきだからね。我らにとっては残念ながらこの世界は脆弱すぎてどうでもいい世界に過ぎないから」
だからって壊してもいいわけじゃないと思うんです。しかも絶対「あ、ちょっと力入れたら壊れちゃった。しょーがないね」ですますつもりですよね!?
マコモおかあさんとおはなしする前に迷宮関係者のおはなしがあろうとは!
「外敵であるという判断は間違ってはいないでしょう?」
マコモおかあさんの呆れを含んだ声にマコモおかあさんに意識を向けます。
「私、ネアにとってマコモおかあさんは外敵ではありません。利害関係の一致で共闘してきた家族だと認識していますから」
「教会でお世話になる道も貴女にはあったわ」
「そうですね。貴女はおかしいなりに私の、ネアの母であってくれました。私ではなく『私』であれば、きっともっと親子であれたろうと私が考えているだけです。利用とおっしゃいますが、お互い様ですし、『娘』さんを助けたいと伝えて頂けたら協力していました」
でも、きっとなにか制約があって明確にできないことだったのかも知れません。
きゅっと唇を薄く噛むマコモおかあさんは否定も肯定もしないというスタイルですね。
「ちょっと変わっていても、貴女は私に『母』としてあろうとしてくださいましたから」
実の娘をなんとかしようとするのも、私にとっては『母』っぽい姿を見せてくれているなぁと思っていたのですよ。
「だって家族ですよね?」
「家族という括りの利点を求めると?」
「私にとっては母も父も妹も、近所のおじいたちも含めてあの生活が楽しいもので守りたいし、私がいなくても維持してほしいとも思うのですよ」
集落として小さくて貧しくて不便で、それでも見てくれていることがわかる環境をあたりまえに与えられた事はとても価値があることです。
「おまえをわたくしの娘のための魔力としかみていなかったと言っても?」
確かに崩壊した迷宮に拘束された娘さんには多くの魔力が必要で。私には有り余るほどの魔力が内包されていますからね。
「そうです。それでもマコモおかあさんは自身の正気と引き換えに娘さんを維持するための魔力を送り続けていたではないですか」
『私』の実母との契約もそのあたりと関係しているのでしょうし。
それに。
「そうしたからこそ、『月砂翠宮』は暴走をそこに留めていられた。私は、ネアはマコモおかあさんの判断は間違っていないと思いますよ」
少なくとも私はマコモお母さんはがんばるおかあさんだと思うのです。
そう行動しなければ、私がネア・マーカスとしてティクサーという滅びの町でなにかを経験できるとは思えないのですから。
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