第498話 魔女のつくりかた
とんっと一歩を踏み出す。
私の言葉に対し良い反応をハーヴェストが返すことはなかった。
理由としては過ごした世界の常識と思考形態が私の当たり前と剥離しているせいだと言う。
岩山の国における奴隷との関係を『私』も良くは思っていないようで、そのあたりに今まで異質性を感じてはおらず、少し戸惑っているのだと正直に伝えてくれた。
人を人同士で売買するのはどうかとは思うと告げればもっと微妙そうな感情が溢れたのでお互いにそれ以上は踏み込まないことにした。今は。
ロサ家と契約を続けた迷宮核に触れる作業を続けていく私、ネア・マーカスをロサ家が止めることはないようで私を追い出した叔父が何を考えているのか悩んでしまう。
私はロサの後継者として生まれ、ロサにも長く生まれなかった『迷宮管理者』を天職としている。
だから、お父様は『お前は特別な娘だ』とおっしゃってた。
私は大きくなったらこの国を、大陸をより生きやすく恵まれた誰もが幸せだと笑える世界作りの大いなる担い手になるのだと。
社会を守り支えるには人が生きていく環境が大切で『迷宮』がひとに優しくなければそれは生き難い世界で、豊かな社会は難しいからと。
そう『私』が生き物が生きるには食べることが必要だと言っていたことにつながるのだと思います。
空腹は、飢餓は、そう。よくない。とてもよくないのです。
空腹であるとはじめて知った時、たすけてと手を伸ばして拒絶され笑われたこと。不快を伝えてもただただだれもなにもが守ってくれなかったこと。さむいこと。いたいこと。血があまいこと。
気がつけばやみのなかで眠っていた。
そう、『私』がいた。
私はただ見ていて助けてはくれなかった狐を私の感情に沿って警戒してはくれた。その狐は私が飢えても打たれていてもただ見ていた狐なのだ。
私のお母様はお母様だけなのに。
利用価値を測る狐をなぜ好めるかがわからない。
だから、私は意識を閉ざす。
からっぽなあそこの土地は気味が悪いし、狐は嫌い。ただ『私』が話しかけてくれる時はそっと聞いていた。
生まれた土地に帰ってくれば、私の名を騙る存在がいて、私から残されたものを盗んでた。
ロサの後継者という座もお母様とお父様の子という座も。
つまり、お母様は私を不要としたのでしょう。
幸か不幸か迷宮たちは私に属することを良しとしました。
お父様が選んでくださっていた『迷宮隷奴』は私に仕えてくれるそうです。
他にもいたという彼女の同輩の多くは叔父の差配で処分されたとだけ聞かされました。
空腹と飢餓を知らなければ恨まないのでしょうか?
それとも管理者として在るためには空腹も飢餓も恨みも知るべきだったのでしょうか?
少なくとも管理する時に恨みというものは織り交ぜてはいけないものだと感じます。
理解はしているのです。
恨んではいけないと。
恨みは迷宮達に人への攻撃性の高さを追加せずにはいられなくなるのだから。
だから、私は思うのです。
奪われたくないのならちゃんと捕まえていなくてはいけないと。
「しかたないな」と微笑むティルケを、『私』が「好き」と特別にしたティルケを盗られないようにちゃんと。
特殊な迷宮の部屋の中なら、そして本人が部屋から出ることができなければ。きっと盗られない。
学都内の初心者向けと呼ばれる迷宮を片っ端から巡る。ひとりはダメだから、時にはニーソ、時にはハーヴェスト。ローベリア。
ハーヴェストとローベリアは戦力に数えることができるけれどニーソは無理だ。それでも同じ時を過ごすことにしているのは盗人の情報を得るためだ。
恨みと飢餓はいつしか私にこの帝国を壊す事を考えさせる。
だって、私は『迷宮管理者』なのだ。
この国でなくともかまわないのだから。
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