第495話 ちょっと黙ってて
涼やかな風が吹くのはそこが高い場所だったからだ。
したの世界はたしかに陸続きだけどほぼ垂直の崖に申し訳程度に張りついた外階段を降りることは最初恐ろしすぎてできなかった。だって下は見えないのだ。
居住空間のあった崖の上は体力のない私でも外周をぐるりと巡るのにかかる時間は朝から昼までくらいで回れる広さ。小さな茂みも水場もあり、一時的な保護者のおっさんが修復した二階建ての山小屋も不足はあれど不自由はなかった。
細かい不足は用足し問題とごみ処理だったろうか。
……食事も服も寝床も問題があると言えばあったけれど。
生きている。
死を望まれない環境は私にとって救いで。
死ぬかもしれないと思える訓練は私をより生きることに執着させた。
毎日外周を一周してこいと言われてできるようになると崖下まで行って帰ってこいとか無茶振り多発だったから。
崖下で大きな猫に会ってからは嬉々として崖を降りるようになったのは私も現金だと思う。大きな猫も私を迎えに来たしね。
大きな生き物に慣れたのはそれもあると思う。
エリアボス蛇はどんどんおっきく成長してるし。かわいいよね。
「邪魔です。園長とわたくしがお世話しますのでお離ください」
こーめーちゃんがパシリとソウガを私から引き剥がしますよ。ありがとう。
緑色の彼はソウガ。正体は植物性の何かよくわからない存在だとしか私は知りません。
自壊してその土地上で再生することで現地理解と環境支配を行うというとりあえず『バケモノ』だよね。としか感想を抱けない存在です。
前任地でもそれやって死亡説が通り、後釜に入っていた私の立場が一時ぐだぐだになった思い出があります。
ヌメるミミズ状の彼に『魔力相性が良いからもっと!』とせがまれたのは今でも許すことができないのです。
基本ソウガの方が強いのはわかっているし、私に甘いことに私が甘えている部分は多いと思いますけどね。
ええ。
蛇は良いですがミミズ系はソウガのせいでダメですよ。ええ。寄るんじゃねぇ。
この場にいるのは私、ソウガ、エリアボス蛇、『玻璃の煌迷』(こーめーちゃん)『ティクサー薬草園』(園長)に『流玄監獄』(流玄さん)『天水峡連』(天水ちゃん)に『魂極邂逅』(たまちゃん)、あと居心地が悪そうな『腐海瀑布』(天職の声さん)ですね。
「天職の声さんは『私』についていなくて良いのですか?」
帝国、迷宮学都の迷宮は全て『私』が天職の声さんの補助で支配を進めてゆくのが理想ではないかと私などは考えるのですが?
「あの子が貴女との繋がりが切れることを嫌ったのです」
つまり『私』の意志だと。
えーと。
弟君に『私』を頼んだ私良い仕事した?
偽迷宮ぶち壊したのはたぶん、ソウガか、あんまり考えたくないもうひとりだろうし。
うーん。
序列勝負するなら私は『私』と力比べの必要があるんですよね。
私としてはティカちゃんをちゃんと正しく余さずティカちゃんに戻したいので私か『私』が勝ち抜かねばならないのですが、最終勝者を私か『私』にするまで手を抜いてはいけないし、そのぐらいはこえなきゃダメですよね。
いいでしょう。
「頑張りましょうね。天職の声さん」
ああ、そういえば。
「ネア・マーカスは彼女のものですし、私の名はどうしましょうか?」
ネイデガート・ロサも別に存在しているし、ややこしいですよね。
「ネアで、よろしいかと。ロサの子らにはちゃんと正しい名があるのですから」
こーめーちゃんがそう言えば、他の子達も頷きますよ。
そうですか。
私はまだネアでいいんですか。
「そうだね。私だけがハニーをプティミーアと呼んでいたいしね」
いや、おまえは黙ってらっしゃい。
ああ、もう。殴っても冷たい視線を送っても喜ぶんだから腹が立ちますよ。
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