第493話 覚悟はない
「そうね。私からすれば、ネアはネアだけど、確かにすこし違うのはわかるわ。うまく説明なんてできないけど、無関心で気ままで空回り。でもね、んー、そうね、えっと向かう方向が違うように思うの。危なっかしいのは同じなんだけどさ」
あの、えっと、ティルケ。私、そんな感じですか?
救出時に『私』がどこまでティルケと話しているのかを私は知りません。迷宮に関わることで、何か大きいことに巻き込まれた。それがティルケ自身の理解だとティルケはきっちり教えてくれました。
『私』がなにやら力でごり押しした結果、ティルケの身柄を回収してきた訳ですが、私の中から『私』と迷宮達との繋がりが消失するという対価を支払っているかたちになっています。それって『私』の手元にはティルケが残らなかったとも言える気がしてもやもやします。
「何年かかるか不明で、それでも競争には勝たなきゃいけないのよね?」
「あ、はい。ティルケはここにいますが、存在値のいくらかが奪われているので回収が必要なんです。それには他の競争相手をぶん殴って立ち位置をはっきりさせないといけないんです」
全部回収しておいてくれればいいのにと思わなくもありませんがしかたありません。とりあえず、ごり押ししていける魔力を高めねばなりません。
「話し合いや同盟も大事よ?」
え。
「聞いてもらうためにまず魔力なりなんなりでぶん殴っておくものでは?」
でないと舐めてきますよ? おはなしあいはそれからです。
「うーん、そうだけど、直接そーいうことを言っちゃうと心の底で反感を抱きやすいの。反感を持たれないのも大事なのよ」
「面倒くさいですね」
「舐められても、反感抱かれてもたぶん私が狙われる可能性が上がるだけだけど」
え。
「それはよくないのです」
ああ、確かに弱い部分を狙うことは正しい戦法でしょう。
「そう? 本当はたぶん、ネアの立場になると特別をつくっちゃいけないんだと思う。でも、私は大切だと思ってもらえるのは嬉しい。だから、ネアは好きに行動すればいいと思う。なにかあればその時はその時。少なくとも私はそう考えているよ」
特別をつくってはいけない。
実際、特別をつくって守れなかったから今の現状です。
それは『私』の手抜かり。それでもその時に選んだ選択肢。私はその時、選ぶことすら見ずに眠っていた結果です。
学都に来なければティルケを守ることは出来たのかもしれない。アドレンスの迷宮は全てが若いながらも叩き込んだ魔力ゆえに防衛力は高くなっていたから。
「後悔はする。きっと荒れる。でも、ティルケを特別からは外せない。私はティルケがよくしていた『私』じゃない。それでも、ティルケのそばが心地いいと知ってる。ティルケを危険に晒しても」
私には『私』のように他の『特別』がないから。
両親も家も大切。それでも不要とすることにためらうことはない。だって役割は終えたでしょう?
はなれる愛情もあると知っている。
でもまず役割が大事だと思う。思ってしまう。切り捨てることができてしまう。迷宮も両親も。ティルケと『私』以外は。
「いいわよ。友達でしょ。私、あんたのそばに居られるように強くなるつもりだったんだし、ネアが面倒なのは今更だし」
ティルケ!?
「私はネアと迷宮の関係性は知らないわ。つまり野良迷宮神子みたいな感じ?」
「野良」
ああ、うん、そう。
「そうかも。迷宮核ぶん殴って意見通せるくらいの迷宮神子同士の強さのランク付け競争みたいなモノだと思います。たぶん」
迷宮同士でも強さランクがおおまかにはあるそうですし。
「えー。なにそれ。迷惑ぅ」
うん。ほんとにね。
「じゃあ、ハーブも?」
弟くん?
「ううん。ハーブは手駒」
ティルケが笑う。
「ひっどい言い方。ネア、逃げてもいいから、負けないでね」
ああ。うん。『私』以外には絶対負けない。
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