第492話 こころぼそい
さて。
強制的に叩き込んだ魔力で迷宮核を屈服させたネア・マーカスです。
これで四つめの迷宮でしょうか?
魔力の馴染みは悪くないと思います。
「迷宮達と会話できてる?」
弟くんが聞いてきます。マトラさんのすり合わせでは聞いてきませんでしたがそれ以外の迷宮では問いかけてきますね。
薄ぼんやりした記憶では『私』は迷宮達とよく会話していたようにも思います。
……『腐海瀑布』との繋がりが有ればなにか違うのでしょうか?
マトラさんとは会話があると言えますが、仲は実のところ良くはありません。
マトラさんは『自分を見捨てた母親』に『愛されている』(ように見える)『私』が嫌いですし、私としては『母と契約しながら実の娘を生かす魔力源にあわよくば使おう』としてくる女狐の『助けたい娘』に対して良い感情を持てるはずもなく、弟くんを挟んでちょっとギスギスしています。
このマトラさん、マオにまで敵意むけましたからね。あの子はおまえを生かすための補助魔力じゃないのに。
さておいておいて。
迷宮達は私の望みは叶えてくれますが、実のところ特に会話はありません。
『私』と迷宮達はひどく近かった記憶をたしかに持っています。私は会話を望まないわけではありません。
よろしくと伝えても、了承を感じるまでで言葉はないのです。
弟くんはそれに違和感を持つようですが、私と迷宮の現在の付き合い方は異端ではなく『そういうもの』であるとわかっています。むしろ奇妙な距離感だった『私』の方が異端だったのでしょう。管理者にとって迷宮は従わせるものであり、反乱させてはいけない存在です。
弱きものはすり潰されて研磨剤くらいは普通だと思うのですが、この思考は『私』は好まないのだと思えばとめておこうと思うけれど、私にはなぜかなしそうなのかが私にはよくわからないことが寂しいことではあるけど。
ええ。
結局のところ、ぐるぐるとわからないとしかわからないのです。
「ハーブくんは私が間違っていると思いますか?」
「うん。ちょっと方向性を間違えていると思うよ? たしかになにをなしたいかにもよるけど」
迷いないですね。
「まあ間違いなくティカちゃんは眉顰めるんじゃない?」
え?
どうして?
よくわからないなりにティルケとは仲良くしていたいというか、彼女のことは見ていたいとか思っているので彼女に否定はされたくないのです。
「んっもう! いーい? ティカちゃんは基本的に周囲との和を重んじてるの。だから、私のいろんな練習にだってつきあってくれてたし、困っているのを見たらほっとかないのよ」
うん。そういう子だと思います。というかなんの練習ですか?
「つまりね」
つまり?
「私達とは根本的に違うの」
?
ニーソの指がひらひら揺れていますね。
「私達?」
弟くんがニーソに問うてますね。
「私は発揮手法が限られているとはいえ、魔力チートも前世記憶もあるいわゆる強者よ。財産もあるし」
弟くんがとりあえず頷いていますね。異世界から召喚されて迷宮と自動契約している弟くんですね。
「そして、それらを私は私が楽しむために活用していきたいわけ」
はっきり言いますね。
問題だとは思いませんが。
「でね、ネアさんは自分のしたいコト優先でしょ?」
私のしたいこと。
「あー、そうね。しなくてはいけないと思えること、やるべきと思うことをするのは自己満足でしょ?」
えっと、
「誰かに喜んで欲しいわけじゃないでしょ」
それは、
「すべきことはするものでは?」
「自分がすべきだからでしょ?」
ええ。そう。
私がなすべきこと。のはずですよね。
迷宮を管理下に置き、人と迷宮の仲立ちをするそれが管理者ですよ。
「責を持って生まれた者の義務でしょう?」
「だーかーらー、私もネアさんも結局のところ自分の道を突っ走るには誰かを踏み躙ってもかまわないっていうことよ」
ある程度は許容するべきだとは思いますが、あえて踏みにじる必要性はないものでは?
「ハーブも?」
サクがぼそりと弟くんに問いかけています。
「あー、確かに僕も僕のしたいことしかしないね。よく頑固で短気と言われてたし。ネアちゃんは確かに意固地なところがあるよね」
意固地ってなんですか?
私はただ。
とてもこころぼそいだけなんですよ。
迷宮は殴ります。
あ、マトラさん寝てる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます