第488話 夕暮れの赤
なんとなく聞いていると留学生は自分の出身国の上位者が外交込みで構えている家に一度か二度(この辺りの数は個人差有り)はご挨拶にいくそうです。
注意点は自分が学都に向かう時に『どこそこへ』と紹介されるところに出向くので岩山の国の多くの人たちは国の役人系ではなく悪徳商のじいさんの関係者に食われに行くんだろうなとか少々思いました。
紹介された有力者に保護してもらう、困った時に対応してもらうものらしいです。
ジーネさんはにっこりと「基本的自立を選んでるかな」っておっしゃってましたよ。
実際のところ、王族の九割を此処帝国学都に疎開させていたアドレンスはいまだ学習中の王子様や王女様(およびお供の貴族子女)がおられるそうです。
アドレンスだけでなく、諸国の若い王族が婚活や有力配下を求めて彷徨っているそうです。時々強制力があったりするので面倒だそうですよ。
貴族と共同開発すると実務九割報酬一割も珍しくないとニエナさんがぼやきましたね。恩師である講師は帝国貴族で九割以上取った上で僅かな報酬から材料費を捻出するので常に金欠気味だそうです。
「お兄様たちに相談しておくね」とマリアちゃんが夕食のお肉をしあわせそうに食べてからそう言いました。
「ニエナはボクの領の民だし、ボクのお世話もちょっとしてもらってるからね」
おお、貴族っぽいぞアーマリアちゃん。
とりあえず、ティカちゃんが主張するのでご挨拶には行くつもりのネア・マーカスですよ。
ティクサーのディディア様とクノシーの領主様と、宰相閣下からの紹介状が荷物袋の中から出てきたので受け取っていないとか言えませんものね。
ええ。
待ち合わせをして一緒に行くんですよ。
夜の前空がじんわりと赤く染まっていくのを通りすぎる人たちが「あら、珍しい」と言いながら見惚れています。
誰かが落としたのかボタン飾りが靴のそばで跳ねてなにか液体がかかります。
拾い上げれば指先に濡れる液体が黒くつきます。
赤い空。
濡れたボタン飾り。
赤く染まる世界で黒く見える鉄錆のにおい。
街の喧騒以上の騒ぎはなく、ボタン飾りからの魔力の残滓はどこまでもティカちゃんだけのもの。
待ち合わせの朝が今は夕暮れ。
ティカちゃんの今住んでいる場所は知らない。
「ネアではないか」
弟王子の声が聞こえた。
「来ると聞いていたのに来ないとは何事だ。迷子か? しょうがないヤツだな。俺様が案内してやろう」
「ティカ、ちゃんが」
来ないと……。
「ティカ? 学都でできた友人か?」
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