第486話 諦めは大事ですね

 はじめて遭遇する人の多さに判別する努力を放棄したネア・マーカス十一歳です。

 判別を諦めたというか、名前と存在を一致させることを諦めたというか、そんな感じですね。

 ですから目立つ人がまわりから呼ばれている愛称はなんとなく把握しているんですが、その呼び名が正確に誰のものかは把握していない感じになっています。

 たぶん、自分には関係がないものだと感じてしまって遮断しているような気がします。これ、『私』のことを考えるとあまり良くないことだと思うんですがなんていうか、すでに深く根付いてしまった習慣のようなものな気もするんですよね。

 幸いなことに私に話しかけてくる人は少数派のようで、講師陣の名前と関わっていった人をなんとなく把握しておけば生活には問題がないと判断しました。

 講師陣も人数多いので把握しきれませんから受講したり、寄ってくる人だけですけどね。

 講座の教室ではじまりを待っている(小柄優先座席があるのでそこに直行)と教室内にはいくつかの塊ができていることに気がつけるようになりました。

 講座内容によってムラや変動はありますが、仲の良さそうな女性グループ。男性グループ。ちょっと混在しているグループに我関せずと一人過ごす数人。たまに何人かの女性グループに男性一人とかその逆とかも見かけますね。

 ちょっと混在しているグループはパーティを組んでいるのかも知れませんね。

 すでに固定された友人関係は見ている分には楽しそうだなと思いつつ、グループ同士でたまに起こる揉め事とかはちょっと、ええ、すっごく迷惑だなぁと思ってしまいます。

 名前は覚えていないけれど、顔は覚えてしまうんですよね。そういう人って。

 そして、その不快感が迷宮に共有されるのはすこし困るのではないかと思います。そして困るんだよという感覚は迷宮は共有してくれないものなのです。

 エリアボス蛇もめちゃくちゃ言い聞かせてようやく攻撃性を抑えてくれたくらいでしたし。(それでも不満そうだった)

 学都の迷宮達は、いわゆる経験が私より高くて誤魔化されると私は認識できないような事態になり、ことが終わってから噂で聞くんですよね。なんか不運なことがあったって。その頃には私がその相手の事をよく覚えていなかったりするのもあり迷宮達が調子にのるような気もしてます。

 あーゆー人間関係から恋愛情報を夢想してどれが推しかを仲間内で語り合うのがニエナさんの楽しみだそうです。そこまではついていけないというか、自分の他者への関心の低さが難点ですね。

 ニエナさんによると「それは着目ポイントの誤差」だそうですが。

「あれー、ずいぶんとちいさい子がいるね。この講座、理解できるのー?」

 かろやかな不快音が聞こえますね。

「やめなよ。キース。ごめんね」

 リリーお姉ちゃんと同じくらいのお姉さんが申し訳なさそうな表情を貼りつけてそこに居ました。

「発言は自由では? 私がどう感じるか、どう対応するかも私の自由ですし」

 このお姉さんに謝罪をされる理由はどこにもありませんね。

 ああ、それとも。

「ご兄弟かパーティメンバー、恋人さんですか?」

 この条件なら言い出す理由も理解できます。

 まんざらでもなさそうな表情の不快音の主に「ほら、迷惑かけんじゃない。講師が来るぞ」とデカめのお兄さんが上から言ってきましたよ。男二人でなんか言い合いはじめましたが関係ないならそっとしといてくださいね。

「えっと、恋人ではないかな。騒々しくしてごめんね」

 申し訳なさそうな表情を貼りつけた笑顔が上手ですね。

「次がなければかまいませんよ」

 はい。終了。

 振り返るものじゃないですね。


 そのしばらく後にその三人のいるパーティがひどい目に遭っていたそうですよ。

 ちょっと、よくやったって思っちゃいましたがよくありませんね。

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