第485話 夕食団らんは日常化

 とりあえず、イシュテルダ・カラント夫人の気掛かりに応えてマリアちゃんの身嗜み(時々清浄かけるくらいでしょうが)を気にかけておくと約束させられたネア・マーカス……拉致られやすさを反省中です。いえ、招待であり、強制ではないのでそもそも拉致じゃない?

 美味しいおやつだったし、何もなかったし、お作法の指導は面白くもあったから。

 枝吊り事件は妹さん案件だって言ってたから、マリアちゃんのお姉さんだったってことかな?

 そんな話をマリアちゃんにしたら。魚の柑橘ソース煮を食べながら。

「それお母様だね。髪に枝が絡まってぶらーんっていうのはボクもしたけど、たぶん、叔母様のことじゃないかなぁ。叔母様なんかは『頭すっぽ抜けるかと思った』って何度も話題にのせてたらしいから。カッコいいよね。あれけっこう痛いし、うまく髪か枝削ぎたいのにままならないんだよねー」

 私なんかは枝燃やしそうですね。あとで水撒けばなんとかなるでしょうし。

「あ、ぁ。あぶないですよ!」

 ニエナさんがぶるぶる震えながら声をあげてます。間違いなくあぶないですね。はい。

「だーかーら、ボクは髪を切ったの! 叔母様は魔力操作で髪の一本も枝葉のひとかけらも配置を把握して動けばいいっておっしゃるけどボクにはまだ無理だもん」

 ついでに「軽くていいよね」とこぼしてますね。マリアちゃん。

「そーれーにー、ニエナだって短い方だとボクは思うなー」

 長いのが好きそうな私やジーネさんがいうならわかるけど、短い仲間のニエナさんが言うのはちょっと不満なのかほっぺたふくふくさせてますね。

「ぅ。調薬の邪魔なのです」

「ボクも動くのの邪魔だからだしぃ」

 調薬中は三角巾で髪をおさえているそうですが、長さがあると髪の端に舞った粉が巻き込まれたりして予定外に落ちたりした経験からばっさりいってるそうです。

「ネアは邪魔じゃないの?」

 マリアちゃんが私に聞いてきましたよ。

「そうですねぇ」

 ちょっとは邪魔ですが、私にとって髪は長いものですのでそれなりに慣れていますし、『私』の髪は長い方が似合いそうなんですよね。あと、ウチの迷宮達は私が長い髪であることを好んでいるようですしね。

「迷宮内でドロップ率高い気がするのと母が手入れに命かけてた感じだったので長いものですね」

 短くするってことを考えなかったかんじかな?

「自分でする習慣をあまり身につけていなかったので、テキトーにしていましたが」

 久々にちゃんと梳いてもらった髪はおさまりが良く心地好いと思えるので。

「簡単な結い方を覚えて、手入れしていきたいですねぇ。『清浄』スキルでブラッシング百回分くらいの効果はあるんですけどね」

 私にとって問題は結い方ぁ!

「ネア、意外と不器用だよね」

 マリアちゃんは意外にも器用でボタン付けはできなくても刺繍は出来る子なんですよね。あまり好きではないそうですが。

「雑さは修練で改善されるでしょうか?」

「難易度の高い武器を扱ってみるのも手かもしれませんよ」

 薄めのパン生地の上に白身魚とチーズとレモンを散らして焼きあげた惣菜パンを食べやすい大きさに裂きながらジーネさんが提案です。

 いまだ熱を保持しているがゆえのとろりと伸びるチーズが美味しそうですねぇ。

 ちょっと焦げた部分がいいらしいですよ。

 寮での食事作法は貴族仕様ではないのでほっとしますよね。

 マリアちゃんは貴族仕様で提供されていますから基本のお作法はお手本にできますね。

「外では手づかみそのまま食べるけど、食事作法はしっかりやるって父様との約束だから」

 談話室でのおやつはいいんだ。

 ソファーに寝転がって手づかみしてたよね。

「秋の期にはちゃんと礼法講座取っておくよう約束させられたのがイヤだなぁ。時間、もったいないよね。武術系訓練したいよう」

「礼法は大事だよ。姿勢や足運びきっちりと身につければ礼法は武に無益ではないし、ダンスも武に通じているから大事かな。ネアは大雑把さが課題」

 ジーネさんがマリアちゃんをたしなめ、ついでに私にも課題くれました。

 私の大雑把さは面倒くさがり屋と同じくらい本能に近いんですけど!?

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