第484話 貴婦人に拉致られる
灰色の髪を大人っぽく結ったお姉さんとなぜか見つめあってます。
「わたくし、イシュテルダ・カラントと申しますの」
「あ、ネア・マーカスです。はじめまして」
おそらく『防汚』あたりのスキルが付与されていそうなロングドレスですよ。暗色な深緑という晴れやかさの薄い色味ですが木漏れ日のようなレース編みと細かなフリルが高級だなぁと思わせますよ。
くるぶし丈のドレスでも歩きにくそうですのに靴先すら見えないドレスですよ。特別な場所で、引きずる前提の装束というのもあるのはわかっていますが、ここ学舎ですよ。冒険者もうろついている学舎。貴族学舎じゃない一般学舎ですよ。なんでそんな服装なんですか?
「わたくしのお茶会にご招待いたしますわ。おいでなさい」
え?
強制?
一歩先に歩き出されるれでぃカラントを見送りがちに呆然としていたら、「マーカスさん、カラント夫人の礼法講座の受講機会は貴重ですよ。頑張って」と通りすがりの先輩に応援されました。小声で伝えて手を振ってくださいましたよ。
礼法講座?
いや、基礎的なものだけでよくありませんか?
面倒くさいと思うんですが?
まわりの先輩方の案内誘導で談話室のひとつに案内されましたよ。
おお。談話室、こんな感じなのか。
赤みの強い木材の壁に大きめの窓。窓にはまっているのは透き通った色ガラス。クリーム色の遮光布が飾り紐で縛られています。
しっかりしてそうな赤いテーブルには焼き菓子の皿が置かれていますし、クッションがきいてそうなソファーが設置されていますね。
知ってます。勝手に座っちゃうと叱られるんですよね。
ところで、沈黙です。沈黙ですよ。
見られてはいるんですが沈黙です。
お茶会って沈黙の観察会ですか?
「身綺麗ですわね」
それはもう日々『清浄』を心がけていますから?
「ありがとうございます?」
「ただ」
ただ?
「髪はちゃんとお梳きなさい。髪を結うならきちんと分けるべきですよ。結い直してあげますからお座りなさい」
強制的に座らさられざっくりまとめた髪を触られますよ。
あー、確かにマコモお母さんのように丁寧に梳いてはいませんでしたね。
マリアちゃんではありませんが、動きの邪魔にならないようにまとめてギュッ。ですからね。ええ。とりあえず食事中に髪を食べちゃうことはさけたいので。
「きちんと櫛は通るのね。そうね。心配しなくても難しい髪型をなさいなんて言いませんよ」
普段できませんからね。
「もし、狭いところや茂みのそばを通るなら、髪はきちんと結ってまとめておくべきですよ。ゆるみに枝が絡んで宙吊りなりなった時に捌き切ることも難しくなってしまいますからね」
たとえがとても具体的なんですけど、実体験ですか?
三つ編みをふたつ左右におろした髪型の出来上がりですよ。分け目は梳きながらちゃんとしましょうね。と言われましたよ。スキルに頼り過ぎずちゃんと髪を梳く習慣をつけることを促されましたよ。
確かに、清浄で綺麗になるからと言ってお風呂は入りますものね。きっといわゆる贅沢なんでしょうけれど。
立ち姿勢、歩き方、座る時の注意点。
「勢いが大切なこともあるわね。規則的で繊細な動きはとても大事だと思うわ」
難しいですね。
「繊細な動きを抑えているからこそ大振りでもがさつではなく、華やかと言われる動きに変わるのだと思うわ。程度を落とすのは簡単ですもの。もし、その気になってくれるのならマナー講座に参加してね」
宣伝!?
「もちろん自由参加ですわ。リトルマーカス。貴女から受講料をいただくつもりはありませんけど」
!?
講座は基本有料ですよね!?
「だって」
だって?
少し俯きめで唇尖らせてるって年上のお姉さんですがかわいいですね?
「わたくしのかわいい妖精さん。アーマリアのそばにいる方ですもの。少しでも周囲の礼法技術をあげておきたいという当家のわがままですもの」
マリアちゃんのご身内でしたか。
待って。
髪の毛枝吊り事件はマリアちゃんの事件ですか!?
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