第482話 蒲鉾という名称は知らない
五階層は水棲魔物を主体にしている『豊穣牧場』です。
水辺の採取物にニエナさんは嬉しそうですね。ジーネさんが「このあたりまでは低階層であまり珍しい物はないのだけど」と苦笑いを滲ませていましたし、釣りは好まなかったマリアちゃんがちょっと暇そうな様子ですよ。釣りは私もちょっと苦手だと感じているネア・マーカスです。水辺の植物採取は楽しいですよ。
……圧殺すると魚介類の干物と『渇水』のスキルギフトがぼろぼろドロップですよ。響きがとても攻撃的な印象スキルですね。あと『魚肉すり身蒸し』ですね。コレ美味しいので好きです。
マリアちゃんも「コレ、魚!? ウソだ! 美味しいのに!?」と理不尽な感情を言葉にしながら貪っていましたよ。
食後の感想は「おなかはいっぱいなのになんか物足りない」
でしたが。
鋼木の林立する六階層には少し大きめな爬虫類系の魔物が多めです。金属質の表皮を持つ魔物達が闊歩しているんですよね。さっぱりしたよいお肉がたくさん獲れます。
足元に積もった枝や木の葉はがちゃがちゃじゃりじゃり音が激しいです。踏めばばきんっと音を立てて砕けていくから静かに歩くことがひどく難しいのです。
「鉱石階層への中継階層と思われているからあまり気にしている探索者はいないかな。出てくる魔物も蛇や蜥蜴系のゆっくりした動きの大型系だしね」
「ぁあ!」
ニエナさんの悲鳴に解説していたジーネさんが何事っとばかりに周囲を警戒しますよ。
「緑宝茸ですよ! 緑宝茸!」
膝をついて落ち葉をかき分け、にょっこりむきだしになった緑のきのこに大興奮なニエナさんですよ。
「きのこ?」
「緑宝茸はとても苦いのですが」
苦いんだ。
「干すと旨みと薬効が増加するんです! 具体的には火傷と育毛剤の素材です!」
「高額採取品!」
ジーネさんの反応が変わりましたよ。
「隠し素材系的な素材ですから、必須じゃないんですよ。ちょっと効果が十倍くらい違うくらいですねぇ。メイデル講師やイーゼント講師がよくお求めですね。火傷よくするらしいので」
「武闘派の火炎使いと魔拳闘家ね。……メイデル講師はいつも帽子とフード。イーゼント講師は……」
「ハゲだよ! ぴっかぴか!」
マリアちゃんの笑顔がピカピカですね。
「え、え!? 育毛剤をおふたりは望まれていませんよ! イーゼント講師は定期的に除毛剤を依頼してくるくらいですから! えっと、……ムダ毛はうつくしくないとかおっしゃって」
比較的火のスキルを暴走させる生徒が多いので火傷薬がよく求められるそうです。
魔力を含む張り手で消火はちょっと衝撃が強そうだなと思っちゃいますね。死ぬよりいいんでしょうし、治療は治療スキル持っている人や薬がありますものね。
「えっと、筋肉と美の在り方がイーゼント講師の命題だそうです」
筋肉と、美。
……。
『石膏瓦解』と同様の趣味嗜好ですか?
「どーかした? ネア」
「いえ、ちょっと岩山の国の迷宮にそういう彫像が並んだ階層があったなぁと。筋肉美を誇る彫像がいっぱいの」
「あははー。暑っ苦しそー。彫像好きな迷宮って多いらしいもんねー」
マリアちゃんが楽しそうですよ。
「んんー、迷宮の彫像って迷宮が自作している場合とね、探索者を石化させて蒐集している場合があるんだよね」
ニエナさんが他にもあった緑のきのこを採取しながら情報追加ですね。
「迷宮によっても石化した探索者を生かしてくれる可能性と、不要とばかりに壊して残骸だけを残す場合があって彫像蒐集傾向がある迷宮は要注意って言われているの。迷宮で、ただの彫像を見かけたら無闇に壊さないようにしてね。二人とも」
私とマリアちゃんは視線を交わし合ってニエナさんにむけて「はい」といい返事をしておきました。
あと、石化解呪薬って銀貨二枚くらいから購入できると聞いてマリアちゃんと二人「高っ」って言っちゃいました。
だって、最安値で銀貨二枚ですよね?
伝手がなければ大銀貨か、キリよく金貨一枚とかボったくられそうな予感しかしませんよ。世の中世知辛いものですからね。
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