第472話 休憩時間終了ですよ
「ところでネア、迷宮核に触れることは迷宮によるとはいえ、それは選ばれし精鋭、高名な冒険者の方となりますし、虚偽放言は罪に問われますわよ?」
フォゼッテ少年をぐぬぬさせたイマース嬢がくるんと私を見てそんなことをおっしゃいますよ。疑われていますね。つまり、学都初年度の学生の常識としてはそんなものになるのでしょうね。
「そーなんですか? 魔力で染め焼けばたいがいなんとかなりますよ?」
ほら、アトマちゃんも肯定してくださいますよ。
「ですから、ネアはあまり攻撃に回ってもらう訳にはいけませんの」
ぇえ?
「なんでだ?」
フォゼッテ少年が不思議そうにこぼし、他の男の子達も同じ感想だけど、同意してイマース嬢にこき下ろされたくないとばかりに沈黙です。イマース嬢、今回はフォゼッテ少年に同意でしたけど。
「やり過ぎるからです」
アトマちゃんの発言が耳に、心に痛い。否定できないから。
「迷宮には自衛機能が存在します。低階層で自衛反応が過剰に機能した場合、通常段階を踏んで強くなる私達探索者には本来より強くて多い魔物と対峙することになります。それは一時的な反応ですけれど、事前に理解して対応しておかなければ、探索する人にとっても迷宮にとっても良い結果にはならないのです」
そういえば、『蒼鱗樹海』でも焼く時は警備隊の人達がきっちり後ろについていて、その後冒険者の人達。な配置が定番でしたね。
もちろん、『回遊海原』でも冒険者の人達が呼び集められてましたよね。思い出せば。
「特別に強い人財の扱いとして一般的に知られているものです。ベテラン勢になるほどにその管理を請負う。それが軍部上位者、上位冒険者に求められる能力でもあります」
ベーゲさんが気持ちめんどくさそうな表情で解説を締めてくださいますね。アトマちゃんの解説は迷宮神子としての意見っぽいですし。
「……それは貴族にも求められますわ。在野の才高き方々の扱い、それは繊細な気配りとお姉様達がおっしゃっておりましたもの。つまり、ネア!」
はい?
なにがつまりなんですか?
イマース嬢。
「貴女、わたくしのそばに侍るべきですわ」
え。
「お断りしますね。イマース嬢」
よくわからないイマース嬢にお断りを繰り出しておくネア・マーカスですよ。
アトマちゃんがひとつ息を吐きましたよ。
「イマース嬢」
「なにかしら?」
「どこかの迷宮の迷宮核に触れることが出来てから仰っては? もちろん、ネアに頼らず自らのパーティで。迷宮の深階層で魔力酔いを起こすならネアと共にパーティを組むことすら出来ませんわ。……実体験からの助言ですけど」
ん?
あー、ティカちゃんも結構魔力酔い起こしてたかも!
アトマちゃんも、ソウだっけ?
「だって、転移罠だったとはいえ、ネアは『豊穣牧場』の八十階層という深層域の魔力圧も平気なんですよ。私ではお兄様お姉様に連れて行っていただいた二十階層の魔力圧でまだ酔いますもの。皆さまは何階層の魔力圧まで酔わずにいられますの?」
あれ。アトマちゃん、つまり殴りに行こうと思えば『回遊海原』殴れる感じ?
あとで聞くところによると『回遊海原』は十階層を越えると魔力圧が非常に強くなって酔いやすいそうです。酔わずに抜けられるルートは有るそうですが。
「酔わない耐性をつけるためにそのチビ女を使ってやるんだろう?」
フォゼッテ少年、不思議そうになに言ってんですか?
「あー、グウ。待って。やばい。そこまで言う高魔力保持者による魔力放出はそこが低階層でも魔力酔いが発生して意識喪失もあるし、そうなると低級魔物から多大な攻撃受けた記録が残って笑いモノになるわ」
ジョーン少年が冷静な分析を述べてますね。
「なるほど。使ってはならない高威力というわけか」
アルウィンくん達も納得顔ですが、なんか私を使えるものとしてしゃべっているんですが、私お断りしているんですけど?
「休憩はここまで。緊張も解れたことだ。次の実習へ」
ベーゲさんがパンと手を打ちました。
「あー、ありがとう」
「助かった。ありがと」
別れ際にコッツくんとケールくんがお礼を言ってくれましたよ。
貴族というか、特権階級の人たちって苦手かも知れませんね!
「家や領の為に学ぶ覚悟が甘い方って苦手ですわ!」
私はみなさまが苦手かも知れませんよね。
「親御さんの思想が透けますよね。ご家族の方がフォゼッテ様を潰してしまわれたいのかも知れませんね」
アトマちゃんが怖いことをおっしゃっているんですが、どこから出てくる発想なんですか?
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