第471話 私は武力だけですよ。ええ。

 王侯貴族ではない私ネア・マーカスは平民組男子達と携帯食を溶かしたお湯をちびちび口にしながらあんまり仲良しではなさそうなイマース嬢とフォゼッテ君の会話を眺めていますよ。宥めるように見えて煽ってるように見えるジョーンくん。アルウィンくんとダンくんはなぜかアトマちゃんにお礼を言って、イマース嬢に叱りつけられていましたよ。

「善意好意で水を提供したのは平民の留学生であるからといってお礼ひとつ正しい相手にできませんのね」

 でも、身分ってそういうモノだとは思いますよ。岩山の国のクルール様は……特殊でしたね。

「よし! 愛人にしてやろう。感謝するといい」

 ぽーんっとフォゼッテ君が発しましたよ。

 なに言ってんですか?

 あ。

「なに言ってんですか?」って声に出てましたね。

「は? 妻の座に自身が相応しいとでも思っているのか? ありえないだろ」

 なんて鼻で笑ってきますよ。このフォゼッテ少年。

「お断りしますね」

「え。グウェンドールさまは貴族の中でも皇帝家に近くて偉いんだよ?」

 そっと諭すようにイクセド君が私の服を軽く引きます。たぶん、反論してはいけないとしっかり躾けられているんでしょうね。

「岩山の国の王弟様に妻にと望まれましたがお断りしていますし? 留学期間終われば帰りますし? 私、私より強くて尊敬できる相手がいいですよ?」

「……ぇ……」

 アトマちゃん、そのおもわずこぼれ落ちた感じの「え」はなんなんですか。その「……ぇ……」は?

「まぁ。素敵な理想! わかりますわ。やはり強さは大事ですわ。家を守るには武力という強さ。そして人を魅了する人徳の強さ。そしてすべてをそつなく運営する事務雑務の高さ。せめてどれか一つは尊敬できる高みにいてくださると素敵ですわよね」

 嬉しそうにイマース嬢が語りますよ。勢い良いですね。

「ネアは今でも迷宮核殴れるくらいたたかう力はあるから、やっぱり対象は年上?」

「え?」

 なに言ってるんですか? アトマちゃん。

 確かに私は迷宮核殴れますが、それは殴られにむこうから来るだけで。

「強いと思える人は……」

 そういえば、ティクサーの警備隊長さんもタガネさんも年上は年上ですね。

 ああ、この人強いんだろうなって思える人、そういえばグレックお父さんの年齢帯かルチルさん、タガネさんの年齢帯ですよね。タタンさんとか。

「タタンさんとかタガネさんとか? オリバーさんは強そうだけど、ちょっと違う感じ?」

「タタン兄様はお強いですからね!」

 ふんわり得意気にアトマちゃんが胸を張ってますよ。ちょっとかわいい。

「アッファスお兄さまは?」

 アッファスお兄ちゃんはなんていうか、うん。成長期だしリリーお姉ちゃんのための伸び代しかない。

 アトマちゃんとちょっときゃっきゃしてたらじっと見つめられていましたよ。

「迷宮核を殴った?」

 フォゼッテ少年がなかなかに不快を表明しつつ言葉を捻り出しましたよ。

「この学都では転移トラップに引っかかった影響で『豊穣牧場』の迷宮核は叩きましたよ?」

 それはもう腹が立ったので。

「な! 魔力の圧に耐えられるわけがないだろう!?」

 えー?

 あー、迷宮に長時間滞在すると具合が悪くなりやすいアレでしょうか? 特に深部に向かえば滞在時間は短い方がいいと講座で説明されていましたね。

「ネアは広域フロアをひとつ丸ごと焼き潰して除草できますよ。草原の国でも火塩草が上層階に大繁殖するところを焼いて頂きましたから」

 私のはじめての迷宮だったからいろいろやらかしているのかも知れないんですよね。それにだってみなさん褒めてくださってついつい。

「加減がわかってなかったから。タタンさんがいろいろ教えてくれて気遣ってもらったし」

「あら。国の危機ですもの。兄様はとても正しかったと思いますの。私にネアとの縁をくださったことも」

 にこりと笑みをもらってなにやら照れ臭いですよね。

「フォゼッテ様は第四子と聞き及んでおりますわ。将来愛人を抱えることができるほどの俸給を確約されていますの?」

「フォゼッテ家は武と人脈構築がお得意なご長男がおられますわね。帝国軍部騎士団と魔法機団に長女様と次女様が。第一夫人のひとり子として甘やかされてはいますけれど、家の要職に有れるかと問われれば、愛玩? と答えてしまいますわね」

 ころりとイマース嬢が笑っていますよ。

 ちょっとこわいんですけど!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る