第469話 お水くらい提供しますよ

「なんで、おまえらだけスープのんでんだよ」

 背後からの大きな声にビクッとしてしまったネア・マーカスですよ。アトマちゃんはスンッと表情を消して対応しないという対応を選択したようです。同じ講座にいた男の子のうちの一人ですよね。特に自己紹介もしてませんし、「誰?」って感じですよ。

「労務官ベーゲさんの許可を得てですわね。配布品ですから、……美味しいとはお世辞にも言えませんが、極限時にはこのような携帯食にも耐えねばならない経験ですよね」

 にこりと微笑んでから扇で軽く口元を隠してますね。

 あ、美味しい物を知っている人には美味しいとは言えない味でしたね。

 私にとっては量はともかく普通にいただけるお食事ですが。美味しいものも知ってはいるんですけどね。

「まだ実習は続くのでスキルを使用した分体力と魔力は回復させるべきです」

 ベーゲさんがはっきりとおっしゃいますし、彼らの後ろにいた担当労務官の人たちも同意しているようです。

「あんなモノ、硬くて食えたもんじゃないだろうが!」

「食べられるように技術を得ることが課題になりますわねぇ」

 イマース嬢、機嫌良く笑ってらっしゃいますが、コレって「仲が悪い?」

「あら? そんなことはありませんわよ。同じ帝国貴族ですもの。わたくしはカラベラ・イマース。彼女は草原の国から来られたアトマ様。そちらのお小さい方はネア様。冒険者として一年を過ごしていらっしゃるんですって」

 おちいさい方って紹介されたんですけど!?

「グウェンドール・フォゼッテだ。こいつはイクセド。そっちのは」

「僕はガドレック・ジョーンだよ。よろしくネ」

「アルウィンという。水のスキルを持っているのなら提供してもらえると嬉しい。スキルでなんとか分割はできたのだが……その食べ難くて」

 後ろで大人しく待機していたもうひとつのパーティ男子の方も代表者だと思わしき人が名乗ってきましたよ。

「……分割って、あれは粉砕だろ。貴重な食料ぶっ壊して砂埃まみれにしやがって……。あー、俺はダン。こっちの大人しいのはコッツとケール。教会上がりで常識知らずな」

「悪かったけど。ダンだって、買い物もできないくらいには生活常識知らないじゃないか」

 アルウィンくんとダンくんは仲良しさんなんですね。朝のパリッとした様子よりちょっとよれてますね。実習内容は私たちとはちょっと違ったんでしょう。たぶん。

 ところで教会上がりって常識知らずなんですか?

「人手の足りない教会では技術伝達があまり行われませんの。名前だけ読み書きできるようにして学都に就学させるのが帝国流になっておりますわ」

 不思議そうにしていたらしい私にイマース嬢が説明してくださいましたよ。

「ふぅん、そうなんですね。私は教会でいろいろ教えていただきましたからちょっと意外でした。地域差はありますよね。それでお水とお湯どっちがいいですか?」

 土埃まみれは『清浄』かけときましょうね。明らかに量は減っているんですが食べられるでしょう。

「あら、ネア様よろしいの?」

 イマース嬢の口調はこう、言外に「親切にしなくてかまわない」と言われている気分になりますね。

「おなかが空いているのは嫌いです。私自身でも他の方でも。ところで、コップも出さずに水をどこで受け止めるおつもりで?」

 教会上がりとか言われたコッツくんとケールくんはさっとコップを引っ張り出してますからね!

 そうですよね。

 器がいることくらいわかりますよね。ガドレックくんもささっと出してたのですが、私の感想は要領良さそうだなですよ。

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