第468話 私だっていろいろできますからね
「スキルを使えばなんとかなるけど、なんか、不思議な負荷がかかる感じがする」
迷宮なわりに魔物の気配とかはないんですよね。
「では、次の労務に向かおうか」
ベーゲさんがキビキビと誘導し、お姉さんが「頑張ってねー」と手を振って送り出してくれました。
次の部屋は、見覚えのある感じの部屋でした。
「あら、写本作りですの?」
「各自一冊。わからないことは説明に応じよう」
「教会で写本作りの奉仕活動経験あります」
イマース嬢は少し不安そうなので経験は薄いのでしょう。
「スキルを使って作ればいいので少し楽ですね」
アトマちゃんは写本作りのスキルがあるんですか?
「『複写』というスキルで、迷宮が記録している人物記録帳を製本するというおつとめがあるのです」
そんな感じで貴族子女には『嗜み』と言われる作業をぐるり四種くらいまわって少々休憩ですよ。
私ネア・マーカス(荒廃地区育ちの平民)がなんとかなったのは教会での奉仕活動のタマモノですね。ありがとうございます。尼僧長様。……うちの迷宮たちうまく運営されてますよね?
「これが携帯食ですのね」
紙に包まれた四角く硬い物体です。荷物袋があるならあまり食べる機会はないはずの食料です。ちゃんと非常用にいれてはいますよ。
「たべ、もの?」
食べることができるのかと不安そうな二人ですよ。
私もそのままでは食べたことがありませんよ。
配布された労務所内専用の荷物袋からコップを出します。
そしてスキル『千切り』で細く切り分けます。
「ネア、包み紙ごと『千切り』は手間が増えると思うの」
アトマちゃんが指摘してくれます。
確かに。
紙は食感が悪そうですね。焼いちゃいましょう。紙だけ焼けばきっといい感じにぬくもるはずです。
「次、機会があればそうしますね。アトマちゃん」
あ。
「あと、これ、一人分には多いのでアトマちゃんもイマース嬢もコップでよろしければ?」
それとも各自配給分でなんとかしろでしょうか? 携帯食は配布品ですからね。ベーゲさんは特になにも言ってこないようですから問題はないのでしょう。
迷宮内では休憩できる時には出来るだけなにか食べておくべきですからね。
「ありがとう。ネア。次は私に『千切り』させてね」
アトマちゃんの『千切り』は調理スキルですから、もしかしたら紙は自動的に排除かも知れませんね。「はぁい」と返しておきましょう。
チラチラと周囲を見回してからイマース嬢もそっとコップを取り出しましたよ。
「感謝いたしますわ。ただでは済ませませんから覚悟なさいまし」
ぇ?
細くて軽く炙ってあるならまだ食べれるものになっているのではないかという期待を感じますが、まだ加工しますよ?
「炙った千切り携帯食をコップに分けます。で、お水を入れます」
「実行が早いですわね!?」
「そして加熱します。ちょっと熱くなるのでコップを触らないでくださいです」
「そういうことは先に仰いませ!」
イマース嬢が賑やかですよね。
「ネア、できれば先に流れの説明が欲しかったわ。目的と効果も。わかっていれば参加できてたかも知れないから」
参加?
アトマちゃんが困ったように微笑みます。
「せっかくの実習でひとつのパーティとして活動しているのだもの。『千切り』なら私だって使いたいし、いちおう、そう一応、コレは食材なのですし」
え。食材じゃなくて一応そのまま齧っていい携帯食ですよ?
「次の機会には相談しますね」
「ええ。覚えていたら行動する前にひとことほしいわ」
ということでお昼ごはんタイムです。
カビっぽさもなく、それなりに美味しい携帯食でしたね。
二人は微妙な表情でしばしコップを見つめてから静かにスプーンを動かしてましたよ。
最近の飽食に比べれば美味しくはありませんが、お肉の味もどことなく感じますし、塩味も感じられます。
カビても傷んでもいない携帯食をはじめて食べたんですけど、これ、ミルク足したらもう少し食べやすくなりそうですよね。あと味が濃いので半分で作って半分は残すべきだったかも知れません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます