第467話 お裁縫は鬼門
特に迷宮であると言う説明もなく、階段を下ります。
大人が五人くらい並んで下りても問題がなさそうな幅広さ、そして華美ではなく清潔で実用的な階段です。
階段を下りてすぐ大きめの広場があり、何方向かに別れて扉がありました。
「通常、ここで罰則金の支払いについての説明が行われますがあなた方は体験生なので異なる解説になります」
つまり、本来は刑罰なので反省を促す解説や脅し行為が行われると言うことですね。再犯防止に。
「帝国や領に納税する事を怠るのは罪ですものね」
イマース嬢が納得した声でおっしゃいます。
「問題行動の罰則にも労務刑は適応されます。無自覚に問題を起こさないようどのような作業に従事するかを学ぶために実習参加を望まれる学生さんもおられると知っておいていただければ」
「労務所での成果は納税、貢献費として接収されるのですよね? 例外もあるとお聞きしていますけれど、例外とは?」
アトマちゃんがベーゲさんに質問です。
「ああ、その例外は負傷や気質的に生活費すら問題を生じさせた住民への救済労働所としての機能です。労務所で稼げる金額はあくまで食費とその日の宿泊費となり、その後に繋がるのは適性業務への斡旋紹介状となります」
真面目に作業すれば長期職種に斡旋される仕組みかな?
「まず、第一の作業場です。こちらでは生地の端処理をしていただきます。出来上がった生地はこちらに移動していただけばよいですよ」
いきなりのお裁縫事案で困惑のネア・マーカス、不器用さんですよ。(不本意)
「ふふ。刺繍や縫い物は嗜みですわ」
「織物は基本ですね」
えー。アトマちゃんの裏切り者ぉ。
えーっと、端っこを三回折って縫っていく?
そのくらいなら出来るかな。
針に糸を通して……針の穴ちっさいし、糸が細い!
ぁあ!
糸が割れた!?
「ネア、この金具に糸を掛けて、引けば針に糸は通しやすいわ。あと、先端に魔力をそっと馴染ませるといいと思うの」
そうですね。アトマちゃんもイマース嬢もひょいっと糸を通して縫いはじめてましたもんね!
「繕い物ははじめてか?」
ベーゲさんに聞かれましたよ。そうです。と答えたいところですが。
「ワンピースなら三着ほど作りましたよ」
先の冬の期に。
人前で着れる物ではありませんがね。
二人は成果をほめられていましたが、私はちょっと、そうですね。イマイチイマニな感じでしたよ。ええ。まあ、成果品がそこに並べられるので仕方ないのです。
「魔力が生地に通っているし、ほつれは出ないだろうが……」
物言いたげにじっと私を見つめるベーゲさんですよ。
「製品としては一定の品質を望まれる」
納入品ってそうですよね。教会でもスキルを使わない技術継承事業でそんなこと言ってたと思います。
「ベーゲ、小さいんだから仕方がないんじゃない?」
検品をしてくれるお姉さん労務官さんがかばってくださいました。たぶん、善意。
「私、十一歳です」
「……あ」
検品お姉さんそっと視線をはずしましたね。
二人が三セットから四セット仕上げている間にようやく一セットですからね。ちょっとついた血痕はちゃんと『清浄』かけましたから。
「ギフトスキルを使ってもいいんですよね。ベーゲさん」
思いついたとばかりにアトマちゃんがベーゲさんに問いかけて「火炎、燃焼系のギフトスキルでさえなければ問題ない」と答えてもらってました。
「ネア、いいんなら『絡まり』で裾処理をするのは? 針仕事きらいじゃないからつい普通に縫っちゃったけど」
照れくさそうに笑われて私はポンと手をうちましたよ。
「そーでした。ギフトスキル使っていいんでしたよ」
ギフトスキルで端処理は専門ギフトスキルでないと操作難易度が上がるそうですが、魔力でごり押ししますよ!
一セット目は手縫い並みに縫い目が不揃いでちょっと歪んでいましたが二セット目はそれなりにきれいにできました。
手縫いを作った時間で十セット作れたのでものすごく時間短縮しました。しかも出来栄えきれい。
助言をありがとう。アトマちゃん。
「相変わらず魔力潤沢ね。迷宮水浸しや延焼だけじゃなくて精密作業もできるの凄いと思う」
そう言って『絡まり』で作業した物を見せてくれました。基本均一で時々だけムラができてる仕上がりなので凄いなとは思います。
「……えんしょう? みずびたし?」
イマース嬢が不思議そうに小首傾げていましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます