第465話 世知辛いと思いつつ実習へ

 その実習は基礎講座のひとつ。

 一般教養的な講座の一環です。

 文字の基礎を身につけよう。とか、物の名前の表記と物自体を一致させよう。とか、お店で物を買うのには現金が必要です。とか、表示された対価をちゃんと払いましょう。(数字は読めるようになりましょう)という内容の講座から一歩進んだ講座になります。

 ちなみにこの講座留学生は名前しか書けない子が主かといえば、同じくらい帝国貴族と帝国移民系貧民も混じっています。

 アトマちゃんによれば帝国における知らぬ犯罪(違法性)項目を知っておくのに使える講座だそうです。帝国貴族が混じるのは現金を持ったことがない子女が多く、問題が発生しやすいからだそうです。後ろから追っかけている付き人が代金支払うそうですよ。

「いきなり見知らぬ子供に「払っておけ」とか言われたら困るでしょう?」

 なんて言われたんですが、知らない人にそんなこと言うんですか? 帝国貴族。

「感覚的には『支払わせてやってる』かしら? そんな些事より自分のために働けることを尊べ的な」

 続く説明に開いた口が塞がらないネア・マーカス十一歳庶民です。

 労務所。

 それは人頭税を支払えない収入弱者のための救済策。

 罰則金が支払えない人のための場所。

 基礎講座で一期に数回は学生ギルドで依頼をこなすように指導されてはいるんですけどね。

 薬草採取や学舎施設の掃除とかの雑用がものすごく格安で常に依頼がある状況なんですが、アレ、実は納税用クエストなので国庫及び領主様の取り分が多くなっているんだそうです。

 そこで納税額が満たない、罰則金が不足だからと言って支払わないでいいかといえばもちろんいけません。

 そこで労務所です。

 スキルが低かろうが、体力が低かろうが、とりあえず、いろんな作業を強制的に行い、実務で納税。罰則金を支払うための場所です。

 で、実習はその労務所作業一日体験です。

 貴族の子女はものすごく不満そうですよ。

 先日、仮想市場でお買い物体験も行われたそうです。(私は商業ギルドのギルド員ということで不参加)

 そこで支払いとかがわかっていない人が今回の労務所体験必須受講生らしいです。

「アトマちゃんは?」

「私は仕組みを知っておきたいだけです。一年間彼らとの生活で買い物は予算が大事と学びましたから」

 あー。

 ウェイカーくん、空腹を埋めるのに無駄遣いしちゃう系だもんねぇ。しかも奢りたがり。

 お膝の上できゅっと手を握り締めているあたり思うところもあったんでしょうね。

 私は……、気を引き締めていないと無駄遣いしちゃうかもしれませんね。物欲には素直なので。

 講師の先生がスッと声をあげました。

「本日は労務所での実習作業となります。好きなだけスキルを使って終わらせてください。食事時間を抜いた固定時間でどれほどの種類の労務作業をあなた方がやり遂せるか、楽しみにしていますよ。指導員の方の指示に従ってください」

 報酬はどうなるんだろうかと思っていたら、この一年の個人納税に回されるそうです。ギルドでの評価、学生としての評価、貴族としての家柄で設定されている基本納税額が後で発表されるそうです。

 ちょっとイヤな講座ですね。

「この講座を受講する帝国貴族の学生さんはご実家から強制されているっておはなしを聞いているわ。選択講座だもの。実習は」

 ……。

 そういえばそうですね。

「買い物は御用聞きがくればいいだろうに」

 そばで男の子がぼやきますよ。

 受講義務になったのがよくわかる発言ですよね。

 つまり、貴族子女はアトマちゃんのように知りたい向学心があるか、お買い物もできない、興味のない子女の二極化なんですね。

 ネア、理解しました。

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