第464話 増える知り合い
「ネルヴェドーラ!」
そう呼んで私を抱き上げたのはマントを身につけたどことなく小綺麗な見知らぬおっさんでした。
まわりの目はあら、はぐれたお嬢さんかしら? それともお孫さん? よかったわね。という生温かいものですが、見知らぬおっさんです。もう一度こころの中で主張します。見知らぬおっさんです。
普段通りの午前講座を終え、まず迷わないように土地勘をとぶらり散策していたらおっさんに絡まれたネルヴェドーラさんではないネア・マーカス十一歳です。
「違いますよ?」
私の名前はネルヴェドーラではありませんよ? マントの下は鎧甲冑なのかしてひんやりと硬いですね。
ちょっと高い視界は新鮮です。
「そうなのか。名前に聞き覚えも?」
聞き覚え?
「ありませんよ?」
中央学舎、別名上位総合学舎区画をぶち抜いて第十総合学舎のある十番街に足を伸ばしていたので勝手に動かれると私が迷うんですが?
「そうか。ネルヴェドーラではないのか。ちょっと顔を見せてくれるかな。……あぁ、ネルヴェドーラの瞳は赤だった」
はい。私の瞳は紫色ですからね。
「どのくらい会っていないのか知りませんが瞳の色はそうそう変わらないと思いますよ」
いい年したおっさんがあからさまにしょぼんするもんじゃないと思います。
「なに。四十年ばかり会ってはいないな」
は?
「よん、じゅうねん?」
「ああ。四十年だ」
「十一歳女児つかまえて四十年生きてると仮定するのは間違ってると思うんです。私、こう見えて成長期ですからね!」
成長の遅い種族じゃないはずですからね。
「おや。想定より若かったか。ネルヴェドーラは十五歳まで十を越えたか越えぬかの姿をしていたからね」
そんな実例聞きたくないんですけど?
「ネルヴェドーラは私の姉でね。四十年たった今でも忘れることなどできない。よく似たお嬢さんに会えて望外の喜びだ」
にっこり微笑まれて「はぁ」と少し気が抜けますね。
「別人ですけどね」
「それでもだ。お礼とお詫びにネルヴェドーラが好んだ系統の食事を受け取って欲しい」
は?
この辺の屋台は串焼き肉とか糖蜜を小麦の皮で包んだ蒸し饅頭が目につきますよ。まぁ、買って帰るつもりでしたが。
どこかの屋台に声をかけて出てきたのはおおぶりの葉で包まれた骨付き肉でした。
大ネズミの丸焼きってところでしょうか?
削ぎ切り用のナイフ付きで受け取り強要されましたよ。
四十年前のネルヴェドーラさんは骨付き肉を好む肉食女子だったんですね。
糖蜜の蒸饅頭干した果物も入っているって書いてありますね。お礼に糖蜜の蒸饅頭押しつけましょう。ちゃんと私が買いますからね!
というか、なにしてもにこにこ笑顔のおっさんがちょっと気味が悪いですよ。まぁ、聞いているところ、これがシスコンという奴ですよね?
十番街をぐるりと散策ついでに、広場やおすすめの屋台。武器防具の商店。迷宮探索に必要な物資がほぼ揃う雑貨屋。探索可能な迷宮の配置。初心者向けは混雑が過ぎるので避けた方が良いことを解説されましたよ。
みんな、初心者向け迷宮はやめとけって言いますね。
「魔物も採取物も取り合いになるから。魔物が敵というより蹴落としあう人こそが敵になる環境は荒むかな」
それは、荒みますね。
時々、肉を削ぎ落として食べているんですが、このお肉、思ったより甘めの味付けで美味しいし、飽きるかな? ってくらいで香辛料の味がくる。
これは、好きかもしれない。
「おいしいかな?」
「うん!」
おっさんと自己紹介しあってないのに気がついたのは朝ごはん時間でしたよ。
見知らぬおっさんが肉を奢ってくれたことを告げるとマリアちゃんが「あ! よく奢ってくれるおっさん連中いるよね! わかるー」と言っていたのでよくあることなんだと思います。
「大きくなったら軍においで。って言ってくるおっさん連中多いよねー」
餌付けで就職を決めさせようとしてるのでは? そのおっさん連中。
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