第462話 夏の丘陵地
ぶすくれた私をテキトーにティカちゃんが宥めつつ、ローベリアさんとは別れて二階層の夏の丘陵地に行ってぐるっと八つの試練を終えます。
攻撃してくる魔物は試練の場にいる魔物だけで徘徊している魔物たちは攻撃しない限りはまるで背景のようにそこにいるだけのようです。踏んだら襲ってきますし、仲間が騒いでいると次々と襲ってくると知ったネア・マーカス十一歳です。
「ネア」
息を切らしているティカちゃんがゆるっと波打っている髪をバッと払います。汗の滴が緑の落ち葉に黒い影を落としますよ。
「なにを、踏んだのかしら?」
地の底から這い上がるような声が抑えた怒りを感じさせますね。
「えーっと草を踏んだと思ったらちょっと深めの穴があったみたい?」
「甲羅蟻の巣だな。甲羅蟻は甲冑油虫と共生していてお互いの危機に助け合うんだ」
ディスお兄さんが解説してくれます。
「白臼瓜坊と夏雲雀は甲冑油虫が好物でね。襲われた理由はわからないでもない」
虫に襲われ、鳥と仔猪に追い回された夏の思い出?
「鳥肉と猪肉のドロップは助かったけど、連戦すぎ〜」
そう、戦闘はほぼディスお兄さんとティカちゃんのナーフ兄妹が行ったのです。
もちろん、試練の魔物は私もエイルさんもちゃんと討伐しましたとも。
赤茄子にゴロっと転がる西瓜に南瓜。青々とした皮に包まれた薔薇の実。風が梢を揺らし香ってくるのは柑橘系の香り。
蔓花が大きく咲いて緑の世界に紫や白を色付けています。
「綺麗だよねぇ」
「そーね。戦闘はいいんだけど、巣穴を踏み抜くのはしばらくやめてね」
「気をつけるぅ」
休んでいるティカちゃんの横で私も休んでいます。一緒に逃げ回ってただけで特になにもしてないんですけどね。
「悪魔の時計だな」
「繁殖力が高いし、結実率悪いくせに微毒性が周辺魔物にも影響を出すからできるだけ刈りとっておくことが推奨されるから、覚えておくといい」
エイルさんとディスお兄さんが悪魔の時計と呼ばれているという花を採取したあと乱雑に根本付近から刈りとっていきますよ。
あー。蔓植物は繁殖力強めなんですね。
春の薬草と花に果実。
兎肉に猪肉。蜂の巣から蜂蜜。
攻撃せずに済んだ仔鹿はもしかしたら鹿肉ドロップしたんでしょうか?
休憩しているとふらっといなくなったエイルさんが「川魚獲ってきた」と差し出してきたので、魚を焼いて昼食としました。お塩振って焼いたお魚美味しいですね!
ティカちゃんはお魚の内臓は苦手だそうです。私は内臓から頂きますよ?
三階層は秋の丘陵地。
一日で四季巡りが出来る迷宮はすこし楽しいけれど、ちょっと疲労が蓄積しやすくもあるかもしれないですね。
試練の魔物は熊や猪。鹿に大蜘蛛でしたよ。
途中でリリーお姉ちゃんとアッファスお兄ちゃんに会いました。
「あら、ネア。来たのね。んー。じゃあ私夏の丘陵地に移動するわね。ネコソギ夏の産物をゲットしちゃうわ。すこし休憩して冬に行けばリポップしてると思うわよ!」
あー、冬の丘陵地ネコソギしたんだ。
「ネア、気をつけて。ティカちゃんも無茶しないように……。あれ、ディリニイ?」
アッファスお兄ちゃんは心配症ですね。ってディスお兄さんとお知り合いですか?
「あー、アッファスか。久しぶりだな」
そういえば、ナーフさんちは十一年前はまだティクサーに居たんですよね。つまり、ディスお兄さんはアッファスお兄ちゃんをご存知なんですね。
「そっかー。ティカちゃんはディリくんの妹さんだったかー。詰めの甘さはお兄さんの真似しない方がいいわよー」
「平静と冷静を心がけます」
「わぁ。ティカちゃんえらーい。困ったらブチ切れる前に相談だよ! 相談可能な先は増やしておくとヨシ!」
お兄さんお兄ちゃんがおはなししてる端でリリーお姉ちゃんがティカちゃんを褒めていますね。
「ハインツはこの一年で故国に帰る心算なんだろ?」
「そうよ。だからエイルちゃん、私の妹分たちをよろしくネ! はい。アッファスくん! 休憩終了! 夏の丘陵地行くよ!」
「え!? 休憩!?」
リリーお姉ちゃんは相変わらず慌ただしいですね。でも、あけたドアは階層を進む方のドアではありませんでしたか?
エイルさん曰く「二周目の夏の丘陵地では?」だったので二周目の季節があるんですね。
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