第459話 切り替えは大事ですよ
呼吸を整えます。
迷宮管理者ネアです。
イライラしているのを察してか猫たちがちょっと距離をとって見守ってきてますよ。
オリバーさんの関係者のようですが、私が誰とおつきあいしているか口出される関係者ではないはずなのですよね。
むしろ、オリバーさんはおじさんの食堂で皿洗いしながら食事を奢ってもらってだべっているようなダメな風の男性ですよね。
絶妙な均衡で対人関係を築き上げていっているデキル男ってわけですよね。その分、まわりにいるのはクセが強い人たちなんだと思います。リリーお姉ちゃんもフェンネルさんもクセが強い方ですからね。
人付き合いは得意ではありませんが、方向性を変えて私自身だってクセが強い自覚はあります。
諦め癖を踏みつけて欲しいものに手を伸ばせって意外に難しいんですよね。
私がそうふるまえていると言うのなら。それは『私』に世界はこわくないし、手を伸ばせば誰かが手を握ってくれると信じて欲しいから。諦めて怖がるばかりでは差し伸べられた手を振り払うばかりになるのだし。
大切なものはちゃんと大切ですが、どうしても時間と距離で興味が薄れがちになりそうです。
目の前でバタバタしているとどうしても意識がそっちに集中してしまって何かと処理失敗しているんだと思うんですよね。
あー。
もう。
面倒くさいですよ。
手を伸ばせば誰かが手を握ってくれるんですよ。
でもね。追い詰められていると差し伸べられた手を見つけることができなくなるんですよ。
たぶん、たぶんですけれどね。
両親を失って叔父夫妻が保護者になったわけですが、たぶん、他にも私が生きていけるように尽力を尽くしてくれた、少しでも生きやすく配慮してくれた人はいたんじゃないかなと思うんですよ。
あの頃、私は全部諦めていましたから。
流されるままに受け入れていたんですよね。
でもね。
文字を書くこと。読むこと。物を食べること。身支度の仕方。よくは覚えていませんが最低限はできるように誰かができるようにと手を貸してくれているんですよ。
その生活の中にある時には『そんなもの』であったために誰かに手助けされて生きていられたんだと言う自覚はなかったんですけどね。
叔父夫妻の娘でもあった妹だって私が生きるためには必要な支えでもあったんですよ。
『お姉様』と呼んで笑ってくれたのはあの子だけでしたから。
まぁ、私と許婚をとりあえず入籍させてから、暗殺して私の許婚と籍を入れることで血統を維持する目的であると主張したお家乗っ取りの一環でもあったそうですが。
叔父夫妻の計画だったそうですし、許婚と妹がどれほど事情に通じていたのかは知りませんし、当時は私もそんなことこれっぽっちも知りませんでしたよ。情報として知っていても言葉、単語文字列だけ知っていてもそれがどういうことか理解していなければただ無力です。
紛れ込んだ世界から『どう進んでも死ぬ運命線しか見出せない元の世界(場所)』に戻るならかえそう。無論、このままここにいても構わない。なんて言われて私は帰らないことを選んだ。
あの人は『死の運命』みたいな言い方をしたけれど、たぶん、帰れば殺されるだけだったんだと思う。
血の繋がりのある人たちもまわりもみんな敵。
私の評価を、評判を貶すためとはいえ、私は学舎に通うことを許された。今思えば表舞台に出されたのだ。手を伸ばせばもしかしたら誰かが握り返してくれたかも知れない。
もしかしたら『死の運命』だけじゃなかったかもしれない。
あの時の私は手を伸ばすことも知らなかったんですよね。
いえ、知っていたのかもしれません。ただ伸ばした手は振り払われるものだと学習していただけで。
だから。
「わかってはいるんですよね。どちらかといえばあのメイドのおばさんは私を心配してくださっているんでしょう。幼女がなにかしらのよろしくないことをしでかした男のそばにいることは確かによい印象ありませんし? ティカちゃんのお兄さんですし、ナーフさんちには信頼しかありませんが、余計なお世話と言い切ってしまうにはたぶん、気遣いなんですよねぇ」
声に出してぎゅうとエリアボス蛇ぐるみを抱きしめておきます。
『罪状確認は簡単にゃ?』
ボロネーゼちゃんがピッとお手手上げて提案ですよ。かわいいですね。
「ティカちゃんが事情説明するまでは知らないでいたいと思います。あー、管理している迷宮に入った人の簡易情報は調べようと思えば調べられるんでしたね。わかりました。そちらは見ないようにしましょう。先入観よくないですからね」
「では、こちらでそれとなく対応しておきます」
グラシィがそっと本を一冊持って頭を下げてきましたよ。
侵入者目録かも知れませんね。
「うん。よろしくー。ちょっと気分落ち着いたから戻るねー」
「いってらっしゃいませ。支配推奨迷宮も選んでおきますね」
「はーい。ありがとうグラシィ」
苛立ちをぽいしとかないとティカちゃんに「また、ぼーっとしてるんだから」って怒られちゃう。
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