第458話 不審者

 迷宮を巡ることは迷宮への魔力提供です。

 基本忖度してくる迷宮にさほど危険を感じていない私ネア・マーカスは迷宮探索を生業とする冒険者から見ると不審者のようです。

 その忠告をくれたのはディスお兄さんでしたが、エイルさんもその意見には同意していました。

「探索者というより研究者ならおかしいとまでは思われないだろうが、変わり者の範疇だね。だが、クズハ・マコモが養育していた娘ならおかしいとは思わないというところ。アレは五十年ほど前までケモノの国の迷宮神子四姫の一人だし」

 五十年?

「マコモお母さん、迷宮神子だったんですか?」

「ネアの母御がクズハ・マコモならば。関連する迷宮以外にははた迷惑な女狐ではあるが、迷宮神子はそのようなものではあるな」

 はた迷惑……。

「確かに敵対者は後腐れなく殲滅主張を全肯定してくれるのがマコモお母さんですね」

 ぽつっと感想を呟くとティカちゃんがちょっとびくりと身をすくめましたよ。

「迷宮という意味ではそうではあるが、その感性を人の関わりに持ち込むとそれはそれで生き難いことになるのでゆるく目を閉ざすことも必要だね」

 殲滅する者の中に知人友人が含められる可能性があり得る以上どこまで。というのは確かに問題でしょう。

 イッパツ殴りたいタイタス・ハールを敵対者として関連殲滅するとなると娘であるアヤちゃんも対象になるわけで少々難ありだと思えます。

「実行できるかどうかは別問題ですよね」

「ちなみに私の知るクズハ・マコモならばやらかすので要注意だ。迷宮神子に良識を求めてはいけない」

 えー。アトマちゃんは良識派だと思いますよ?

「まぁ、賑やかですこと」

 女性の声に振り向けば、エプロンドレスのメイドさんがおられましたよ。迷宮にメイドさん(ちょっぴりふくよか)ですよ。違和感!

「ローベリア女史」

「迷宮内で迷宮批判は好ましいとは言えませんよ。エイルフィール様。ナーフさんも問題行動ゆえに行動制限を受けておられるのですから、行いにはお気をつけなさいませ」

 ディスお兄さんは黙って一歩下がりましたよ。エイルさんは軽く膝を曲げてメイドさん(ローベリア女史)に敬意を示したようです。

「こんにちは?」

 それとも庶民は挨拶もしない方が良かった?

 あ。

 ティカちゃんは一歩下がったディスお兄さんに倣っていた。私もそう動くべきだったぁあああ。

「……ごきげんよう。ネアお嬢さんかしら? リエリーさんやオリバーから聞いた通り可愛らしいお嬢さんですこと」

 リリーお姉ちゃんとオリバーさん、何知らないところで私の話を?

「昨年の入試後の講座でもひどい災難に見舞われたとお聞きしておりますよ」

 あー。

「思い詰めてらっしゃいましたけど、根は良い方でしたし、講座を受講して先輩方からのあたたかい配慮等もあり、良い経験だったと思ってます」

「まぁ、そうでしたのね。よい先輩、よいおともだちを増やせるとよろしいですわね。私、ローベリアと申しまして八番街で学生宿を営んでおります。あと、基礎素材の基礎処理講座も第八総合学舎で講座をひらいていますからお気軽に受講してくださいな」

 あー。

「いつか機会があれば受講したいと思います」

 基礎素材の基礎処理って重要だよね。あと切り口が違うかも知れないから複数受講しておきたいのは本音かな。

 ただ第八総合学舎遠いけど。

 手持ち籠に採取物を詰めながらローベリアさんはにこにこしていますね。ふくよかでやわらかい笑顔でここが迷宮でなければ、ほっこりなんですけどね。

 ただ、迷宮で(比較的安全とは言え危険な)くるぶしも見せない伝統的メイド服に髪をまとめるキャップ帽。うん。場違いだと思うんですけど、思っているのもしかして私だけ?


【探索時の服装に規制も規定もありませんよ】


 そうなんですけどぉ。


【ローベリアは『丘陵公園』程度なら単独踏破しておりますから、ピクニックがてらの空いた迷宮での採取なのでしょうね】


 偽ではなく本物の『丘陵公園』踏破者なんですか。


【そうですね。ですからオリバーを脅して鍵を手に入れたようです】


 えー。こわい人っぽい。

 やさしそうな人がこわい人であることはよくあるけどさ。

 気持ちさ。なんか、『まともな人間じゃない人間とおつきあいを選ぶのはまともじゃない』ってむっちゃ否定されている気分になるのはなんだろう?

 ケイブさんとなんかやっちゃったっぽいディスお兄さんをじんわり印象悪くしていこうと動かれている気分になっちゃって気分、良くないですね。

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