第451話 今は実技講座中ですね
講師のせいではないと思うとニエナさんはのたまいます。
その人はその人で『迷宮仮死存在』になってしまったパーティメンバーを助けたいとニエナさんに薬草や魔物のドロップ等の素材を都合してくれていた冒険者の人だそうです。ニエナさんも破損を抑えうるであろう『解呪薬』や『固定薬』を都合つけ続けていたそうです。
「だから、効果があるであろう『解呪薬』が完成したのも嬉しくて、先生の発表用分以外にひとつだけ確保させてもらった分をお渡ししたんですよ」
え。
言うなれば恩人?
フェンネルさんも微妙な表情ですね。
ジーネさんがわざとらしく息を吐きましたよ。
「その話、聞いた事があります。最適に保存された彫像群を破壊して得れた採取ドロップ品を素材にしている『解呪薬』ですよね。仲間を救う為の解呪薬が仲間自体からつくられた悲劇として戦闘学科では囁かれていますね」
「ぅえ!? ひどい。ぇ? だって、私、問題なく蘇生できるように『保護薬』を……?」
「普通なら既存の『解呪薬』やスキルで救われないのなら諦めるんでしょうけど、死体や不純物は異物として迷宮に取り込まれるモノだし諦めざる得ないのに未練ではあるかな」
つまり、『保護薬』が効果を発揮してしまうと。
【そうすることによって、未練を持つ冒険者が強くあるならば、その冒険者が定期的に通ってくる状況は迷宮にとって有益ですからね。あと非常用ですね】
わぁ、とっても有用。
「だって、恋人さんだって……」
ニエナさんがしょんぼりですよ。
「助けられなかっただけじゃなかったんですか? だって、蘇生可能性のない破損した古い人たちのカケラだって、先生はおっしゃってて」
ローブをギュッと握って俯いているので表情はわかりません。
「私、助けられなかったから怒られているんだと思って。だから、私も悪いから減刑は希望して……。私、もっと悪いじゃないですか。私、あの人が私以外にもたくさんあたってなんとかしようとしていたの知ってるんです。ひどい」
ポタポタとローブに濃い色が落ちて広がっていきます。
ただ、迷宮でする話でも実技講義中にする話でもないんですけどね。
たぶん、他学部や冒険者たちの情報交換としては有益なんでしょうし、これもまた講座の醍醐味ではあるんでしょうが、採取時間は限られていますし、ニエナさんは単独採取不利なので奥の方で採取した方がいいのではないかなと愚考するのですが、それを発言するとヒンシュクを買いそうなので黙ってその辺の草を摘んでおくことにしたネア・マーカス十一歳です。
確かに深部にむけて進みつつ、採取(私)防衛狩り(ジーネさん)が行っているので問題はないのかも知れませんが、ニエナさんの採取はできない、もしくは少ない状況になってしまっているのでは? 気持ち的にそう行動できないというのも仕方のないことなのでしょうか?
「あ、ネア。それを採取するなら手袋を。かぶれちゃうから」
ん?
「はぁい」
採取手袋、採取手袋っと。
「あ。良い採取手袋。ニオンさま製かハインツさま製ね?」
……見てわかるんだ。
「私製ですね。ちゃんと使ってくださいね?」
草や実も簡単に摘むタイプではそういえば使ってなかったかも?
ぎゅっと顔をローブの袖で擦り上げたニエナさんがにこっと笑いましたね。
「ごめんね。彼のことは後でどうなっているのか調べる。今は採取講座の実技中だわ。人の指先の皮脂が付着すると成分に変化が起こっちゃうのね。魔力変換が早くて摘まれることへの防衛反応だと言われているの。迷宮植物にはよくある事例だから採取を素手で行う癖はなくすべきね」
つらりと注意事項が語られました。
これが先輩から後輩へと伝えられる伝統文化というヤツですか?
なんというか、私には多分必要のない気遣い(迷宮側の忖度がある)なのですが一般常識は知っているべきですよね。採取は素手で行わない。
「採取講座を受ける気のない冒険者は採取手段が雑だと言われて報酬が低くなり気味かな。素手で行ってカブれた結果治療費で赤字だったりすると採取はハズレクエスト扱いかな。講座も戦闘力にあまり関与しないものだから受ける者も少ない」
ジーネさんがプラスの情報をくださいますよ。
「個別専属契約を望む冒険者の方たちは受講しますよ?」
フェンネルさんがそう言えば、「だいたいは採取護衛を受けてなんとなく知識を持った者くらいだけどな」と苦笑いしてらっしゃいました。
私は、まぁ、護衛のいらない薬草採取人目指しているんですけどね。
あ。
なんで三人とも微妙そうな表情なんですか?
ちゃんと採取はできるんですけど?
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