第449話 見覚えのある眼差し

 実技に使われる迷宮は『ざわめきの原』と呼ばれるフィールド型の迷宮だそうです。

 ちょっとした原っぱを散策していると気が付けば迷宮内っていう誘い込み式の迷宮だそうです。明確に入り口はなく、原っぱのどこかに転移陣が蠢いていると言われています。固定されていないケースもあるんですね。

 集合場所で待機しているとすすっと寄ってきたのはフェンネルさんですよ。目的は少々不足気味の素材の採集。

「久しぶりですね。ニエナ。新しい機材を思いついたら聞きますよ」

「ぁあぁっ、ニオン様」

 慌てふためくニエナさんを落ち着かせてから話を聞くと同年代の学生の中でハインツ様とニオン様(リリーお姉ちゃんとフェンネルさん)は錬金術科と魔具製作科の若手希望の星。落ちこぼれ寸前の自分では言葉を交わせる愚は犯せない。などとわけのわからないことを小声でまくしたてられましたよ。ニエナさんは落ち着いた方がいいと思います。

「しかもハインツ様は他国とはいえ、高名な錬金術師のお家柄、ニオン様は帝国貴族のお家柄なんですよ! 畏れ多いです!」

 とのことでした。

 フェンネルさんは笑って「三男なので好きなだけ職人目指せるんですよね」と面白そうにニエナさんを見守ってらっしゃいました。

 そばで固まっているメンバーで班分けしたとわかる班分けをされましたよ。フェンネルさん、ジーネさん、ニエナさんに私ですからね。

 パーティメンバーはだいたい三人から五人で分けてあるようでした。それに全体を見守る講師陣と助手って感じのようです。

「低階層はほんとうに豊富に基礎素材があるのからいいよね」

 アレもコレもと嬉々として採集する姿はほのぼのします。

「コレ、コレね、単体では有毒で使い難いんだけど、中間触媒としては優秀なんだよ」

 などと解説もいれてくれるのでとてもためになります。

「楽しそうだけど、もう少し先の階層に潜ろう。この辺りなら普段も来れるだろうし、入り口に近過ぎる」

 軽い動きと声でフェンネルさんが誘導します。名残惜しそうなニエナさんには「荷物袋いっぱいになっちゃうよ」と囁いて納得させたようです。

 その会話の中でふと出た話題が『迷宮内仮死存在』。通常は迷宮に取り込まれる死亡した冒険者や魔物が迷宮内に有り続ける存在をそう呼ぶそうです。

 そしてそんな存在が蘇生する可能性は百にひとつ。無傷のまま癒される必要があるそうです。石化なら石化解呪。凍結なら凍化解呪、人形化なら、という感じでそれぞれを解呪していかなければならないそうです。その時に失敗して亡くなる事例も多いとか。

 なぜそんな話題になったかといえば、解呪蘇生に失敗した『仮死であった存在』から秘薬と呼ばれる類の薬がつくられると発表されたからだとか聞いて、「先生に発表していただいたの」などとニエナさん問題発言ですよ。

「全部講師の功績にしなくてもよかっただろうに」

 呆れたようにフェンネルさんがぼやきますね。

「有用なお薬は権威のある方の発表の方がいいんですよ。今の下宿に入居出来るだけの金銭は都合つけてくださいましたし」

 ありがたいですよね。とにこにこしているニエナさんに対して微妙な表情をフェンネルさんがむけてますね。なんだか見覚えのある表情の気がするんですが、どういうことでしょうね?

「ニエナ、ありがたいというのはですね、全ての責も買い取った方に向ける事です」

「ええ。ですよね。ニオン様」

 フェンネルさんが思いっきりため息を吐きましたね。

「発見したのが貴女であることはそれとなく知られていたので、負債は貴女にきたではありませんか。自覚なさい」

「え? 負債?」


【『迷宮仮死存在』を売り渡した人間と無傷の状態を維持していた恋人がいたらしく、ニエナは一度襲撃されていますね】


 うわぁ。それは明確に負債。

「薬を見出したのは貴女だとあの講師が言ったせいで狙われたんでしょう?」

「え? そうなのかな?」

 フェンネルさんが明らかに苛立たしげでしたよ。

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