第445話 女子寮『赤煉瓦』

 学都での正式住居確定した迷宮管理者ネアです。

 メイド、グラシィ・ライツはにこりと笑って「名交契約はゆるく行いましたよ」と言ってきました。

 名交契約とはお互いの名を交わし合うことだそうです。

 つまり?

「貴女はこーめーちゃんと呼んでくれましたし、こーめーはちゃんとネア、貴女をお呼びしましたよ?」

 つまり、こーめーちゃんの契約はネアと結ばれているそうです。

 なぜか猫たちが『狡くにゃ?』『狡いにゃ』『抜けがけにゃ』と小声で囀ってますよ。

 ……そういえば、私が勝手な呼び名で呼ぶことをどの迷宮も良しとしますが返しについて明確に名を呼んできたのはこーめーちゃんくらいですか?

「はい。こーめーはネアと契約をしていますよ。正式に迷宮支配はネアの都合のよい時期になすってくださいね」

 あれ?

 あ。そうだよね。迷宮支配はしてないよね?

「あくまで個人契約です。住居の提供とその他生活の手筈。対価としての魔力。そして私が買い物に街を散策する許可ですね。それは迷宮支配契約とは違う従魔契約に近いものですよ。家精霊が憑いている家屋は相応しい家主を選ぶものですからね」

 家精霊って、こーめーちゃん家精霊じゃなくて迷宮でしょうに。

「こーめーの基は『弱者の護場』ゆえに迷宮としての成長は遅いのですが、他の迷宮とは違う規範で活動も可能なのです。感知可能な者は少ないですが、基礎契約に触れず契約を足すことが可能であることを嬉しく思います」

『ズルいにゃー』

『小賢しいにゃー』

 弱者の護場。

「ですから、何番街であろうと扉を開けますからね。よきようにお使いくださいませ」

 ん?

 どこからですからになったの?

 ちょっとわかんない。

 くるりと外周を煉瓦塀に囲まれている家屋への入り口は『玻璃の煌迷』へ入る手段と同じです。鍵を持っていなければ足を踏み入れることも扉を見つけることもできないそうです。迷宮学都内では珍しくもないそうです。

 珍しくないんですか。とつい声をあげてしまいましたよ。

「普段見つけ難い酒場で一番街の路地にあったと思えば、数日後見つけたのは六番街の倉庫街にあったりでよくある話ですね」

 特定の鍵や条件設定がそれぞれにあるそうで、なんらかの機嫌を損ねた場合の弊害が多すぎるため全部ロサ公爵家、つまり領主預かりで管理されているそうです。

「今、把握管理なされる方は本宅に居られませんので問題ありません」

 と、こーめーちゃん問題発言ですね!

『迷宮目録はうまく使えてにゃいから大丈夫にゃー』

 あ〜、ロッサ嬢の持ってたあの本ですね。

 でも、ロサの次期公爵ネイデガート・ロサはネアと同じ歳で将来有望視されているんですよね。

 ウェイカー君曰く「いけすかねぇガキ」ですが、ウェイカー君も「クソ生意気なガキ」ジャンルですから路線違い嫌悪の可能性もありますよねぇ。

『ニーソはティカに懐いてるにゃー』

『ニーソはカモネギウドン(が好きな料理)もボロネーゼ(が好きな料理)もサンディ(が好きなお菓子)も好きと言ういいヤツにゃー』

『リリーがまたどっかの講師煽ってたにゃー』

 猫たちはどうやら私の交友関係中心に関連情報を集めてくれているらしく毛繕いをさせてもらうといろいろとおしゃべりをしてくれます。

「仲が良くてなによりですね。落ち着いたら女子下宿処として運営をはじめますね。一般女子のサンプルはあった方が良いでしょうから」

 他の住人はサンプル予定ですか?

「必要でしょうから。あと、もふもふは増えるかもしれませんねぇ」

 ルールを定めなければなりません。そう言うこーめーちゃんはじっと猫たちを見つめていました。

 他にも迷宮から来るってことですかね? そうモノ好きも多くないのでは?

 猫付き迷宮付き女子寮『赤煉瓦』が正式運営するのはこの春の期でした。

「人の姿をとれない者は人語発声禁止ですからね」

 こーめーちゃん、いえ、グラシィは指を一本たててひとつ目のルールを猫たちに宣言していました。

 台所でトマト鍋を混ぜながら『わかったんにゃー』と返すボロネーゼに満足そうにうなずいていたんですが、料理も見えるとこでさせてはいけないのでは?

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