第440話 かわいい後輩
その少女は薄茶の髪を束ね、簡素なワンピースに実用的な革装備で第四総合学舎では浮いて見える少女だった。
そこまで目立つ容貌でもないのに人目を惹く。そんな感じである。
「メルステラ、あの子困ってるんじゃない?」
友人がそう言って駆け出す。
「お嬢さん、なにか困り事かしら?」
少女は周囲を見回してから声をかけられたのが自分であると確認をとっている。
「そ。貴女よ。私はエイルフィール。はじめまして」
まっすぐにエイルは少女を見つめて名乗っている。年下の子を脅かしてなければいいんだけど、エイルは強引だから。
「ティルケです。治癒系の受講のための案内を学生ギルドの方に」
あ。
各学舎ごとに学生ギルドがあって成績を競い合うなどがあるせいで連携がイマイチイマニなのである。
「ギルド受付はこっちよ。案内してあげる。いいわね。メルステラ」
「はーい。私はメルステラよ。よろしくね。後輩ちゃん」
新入生であろうティルケ少女を事務局まで案内。見知らぬ年上に案内される緊張感が初々しくてかわいいと思う。
「ティルケは治癒術を覚えたい感じの子? それとも治癒術を使える子との連携を考えたい子?」
「あ。一応治癒術は使えるので伸ばしたいと考えてます」
「え。もう使えるんだ? 有望な後輩だわ! 私、ルームシェアフレンド募集中よ」
「ルームシェア?」
「治癒系女子を狙うフココロエモノ対策とも言えるわね。同性で家を借りて共同生活してるの。何人かメンバーが抜けて家賃の支払いが今不安なんだよね。エイル」
「私は断ったわよ。メルステラ。一人暮らしがいいのよ。鬱陶しい」
ばっすり切り捨ててくるエイルは自分時間優先派なので不特定多数とはあわないのである。私なんかは寂しくなっちゃうけどね。
「学都に来たばかりで、お家賃とか講座の費用とか装備の整えとか目鼻がつかないとお答えできません」
ティルケ後輩、むちゃくちゃしっかりしていた。十歳かと聞けば十一歳と返ってきたけれどうわーしっかりしているぅ。
「メルステラよりしっかりしてるんじゃないの?」
「そうかも」
絶対そうだよね。
「慣れるまでは奢っちゃうよ?」
「それダメです」
ほんとしっかりさんだね。私なんか誘われてすぐ受けたよ。速攻で診療所の治療師のバイト紹介されて稼げるようになったけど。物量は力だよね。
ティルケ後輩は迷宮が戻ってきた失迷の国からの留学生でいくつかの魔法スキルギフトをモノにしているらしい。遺伝でなく、ドロップギフトをモノにしている十一歳は将来有望じゃないかな?
私が十一歳の時はどうしていたか。
モノにしきれていない解毒スキルで診療所バイトに放り込まれて、毒におかされた患者の解毒、毒のまわりを遅くするだけでもやっとけ(優秀な治療師は割り込み患者対応がすぐできない)とこき使われてたっけな。
ルームシェアを誘ってくれた先輩が治癒系ギフトがドロップしたからってプレゼントしてくれて。診療所バイトでちゃんとモノにしたんだよね。うん。
今、思えばいいように斡旋されて安くこき使われていただけの気もするけど、診療所の先生に講座の講師先生とかもいたからメリットも大きかったんだよね。講座で覚えられそうな回復系ギフトの方向性を普段のバイトしている状態からも指導してくれたりで。……自分が使いやすいスキルどりをさせようと暗躍されていた気もしないでもないけど。
「私、迷宮探索で活動費が貯まってから考えようと思います」
「今は寮決めてるの? 第一市街の寮はやめておきなさい。メルステラの誘いが正しかったと思える事態が待ってるから。治安悪いのよ」
私の誘いが間違っていると言うの?
「エイルぅ」
「初対面で強制労働待ったなし環境に誘うのは最悪でしょ。でも言葉を交わした相手が酷い目に遭うことやゲンメツするハメになるのは気に食わないし。ティルケは素養高そうだし」
ああ、エイル的に『知り合いになっておいてもいい』相手なわけだ。
「ところで強制労働ってなに?」
大通りから一本道を入って進む。大通りに学舎の建物はあるし、門もあるのだけど、事務受付は見つけ難く設置されている。第四総合学舎では事務作業講座の受講受付はもちろん事務受付(学生ギルド)で受付けているけれど、新入生が直接たどり着くことはなく、まずは各市街の教会や冒険者ギルドに学生カードを通してから紹介されるというのが一般的な流れである。
「強制労働は強制労働よ。第四総合学舎の講座を受講するなら住むのは第三市街第四市街第五に第六市街までの範囲がいいかな」
エイルは第五市街に家借りてるもんね。家賃払えなくなったら潜りこませてほしいって頼んだら思いっきり蔑まれた。
「あそこが学生ギルドの受付けだよ」
ティルケ後輩は第三総合学舎で試験を受けて、冒険者ギルドカードの評価をもって第四総合学舎へ案内をされたことがわかりました。
治癒系スキル使用者としての階級診断試験(初回無料)を紹介されているのだそうです。つまり、優秀。
ちなみに私は初級者です。解毒(軽度)と治癒(すり傷、打ち身)
本当はもうちょっとマシな回復を行えるけど、階級診断試験は基本有料なので更新してないんだよね。
エイルみたいに本職治療師じゃないのに欠損を補える中級者資格を持っていると迷宮探索でパーティを組むにも有利なんだよなぁ。危険が伴う場所での初級治癒資格って歓迎されないから。
「メルステラも更新したら?」
「予算ない」
ティルケ後輩、中級者資格をゲットしてました。
ほんとにルームシェアしない!?
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