第439話 のんびり安全区画

 ティカちゃんは荷物袋から取り出した棘付きメイスでヤドカリを粉砕し、勢いそのままにセンギリウサギも瞬殺でした。ティカちゃん、実はボブさんよりお強いのかもしれませんね?

「ティクサーで警備隊のお兄さんたちに手解き受けていたんだから。恥ずかしい実力でいたくはないでしょ」

 ティカちゃん、向上心高ぁーい。

「ネアとも遊ぶけど、帰った時にガッカリされる成長具合だったりしたらカッコ悪いじゃない。成長して帰って家族の自慢になりたいからね」

 ティカちゃん、物言いキツいことは多いですけど間違いなく家族の自慢の末娘だと思いますよ?

「振りまわされて怪我しないようにな。嬢ちゃん」

 ケイブさんが鼻を軽く啜りながらそんなことを言ってますよ。ええ。私とティカちゃんに軽く引かれているんですが、気が付いてはいないようですね。

「ケイブさん、ビビられてるよ?」

「いい子は貧乏くじ引きやすいんだよ。リリーにはわかんねーよ」

「当然でしょ。私が負傷したら助けられる者も減るじゃない。その前に敵性対象は殲滅よ」

「いや、その殲滅過剰火力に巻き込まれて怪我することもあるだろうが!」

「痛い思いさせるのは申し訳ないけど、そんな場合は絶対ちゃんと治すわよ。決まってるでしょ」

 口論をはじめたリリーお姉ちゃんとケイブさんを一歩引いて見守っていると横でティカちゃんが息を吐きます。

「痛いっていう事実は変わらないし、痛いのはやっぱりこわいわよね。治せても痛いの。私は自分で治せるからもしかしたら自分の痛みには鈍くなっていくかもしれない。これはネアもね。でもね、怪我しているのは見ていても痛いから。あんまり怪我しないように頑張るのがいいわよね」

「怪我したらすぐ治そうね!」

「当然だし、まずは怪我をしないようにしないとね」

「痛みの限界値を探る時は治療者も手段も複数用意するのが重要よ」

 リリーお姉ちゃんが片目を瞑ってそんなことを言いますよ。

「そんな実験したくない」

 ティカちゃんが真顔でそう返します。私もティカちゃんに同意ですよ。

 おしゃべりしながら安全区画を見つけました。前回使った安全区画ではなさそうです。

 黒い石版が壁に貼りつけられていますよ。

「公用語ね。えっと『サンディの休憩処。綺麗に使ってね』だって。猫のマークがかわいいね」

 公用語は教会が覚えることを推奨している言語で冒険者ギルドと商業ギルドも公用語を採用しています。それとは別に帝国の王侯貴族が使う言語やギフトスキルを解析したり、歴史を学ぶ魔法使い達が使う魔法古語。技術者だけが使う謎言語とかいろいろ知っている人はいろんな言語知っているらしいです。

 一般的には公用語を読めれば不都合はないはずだそうですけどね。

「きれいに。では! 『清浄』ですよ」

 特に汚れてはおらず、ふわりと埃が払われた感じですね。

 草原にぽつんと佇む丸太小屋な安全区画ですよ。たぶん、外を囲う木柵からが安全区画ですね。丸太小屋はとりあえず屋根があり、三方向には壁が。全開放な一面。椅子はないけれど、カウンターにちょうど良さげな高さの仕切り塀。開放部付近にはいくつかの煮炊きできそうなかまどがあるので冒険者としては準備が上手くできていなくともなんとかできる環境ですね。

 魔力回復速度が上がる効果はないようですね。

「あ。ネアちゃ! ティカちゃん! きれいのお礼出てるわ。コレはキレイだよー」

 リリーお姉ちゃんに呼ばれて振り返るとちょっと高めのグラスに白いかたまり……アイスらしき物がのっているドリンク。なんか弟くんが前に作ってくれた物にどことなく似た物が四つ出現していましたよ。

「『サンディのお礼スイーツ』だってー。甘い物だよーたーべーよー」

 冷たいおやつはみんな大好きでした。

 お持ち帰りはできない仕様だったのが残念です。

 ボロネーゼちゃんの肉トマトスープもそうでしたもんね。そういえば。

「……。コレ、気をつけないと魔力酔い起こす魔力濃度だ」

 え?

「ティカちゃん大丈夫?」

「うん。ゆっくり食べる分には大丈夫。たぶん、私にはまだちょっとこの迷宮は強過ぎるんだと思う」

「そっかー。じゃあ今日は頑張ろうね! 体が慣れて適性になれば成長率上がるし! いい事だわ」

 リリーお姉ちゃんがアイスをすくったスプーンを口につっこんで「うーん。林檎味ぃ」とか囀ってしあわせそうですよ。

 ティカちゃん、リリーお姉ちゃんとうまくやれそうですか?

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