第438話 戦闘訓練を
そこはロッサ嬢が『丘陵公園』と呼んだあの迷宮と同じに見えます。
ええ。
もう燃えてません。
長閑な丘と森というには薄い雑木林。小さなせせらぎにかかる倒木の橋。空の高いところを飛ぶ鳥にゆるく流れる白い雲。足元には小径があり、その傍に小さな花がいろいろと揺れて蝶や虫を誘っています。
ネア・マーカス、根こそぎ採取する勢いを見てちょっと困っておりますよ。リリーお姉ちゃん容赦がないですね。ええ。
「他の採取者いないしね!」
爽やかな笑顔ですよ。
がちゃんと覚えのある音がしますよ。
ヤドカリ。人間サイズのヤドカリですよ。
燃やしても殻で自身を守る有能ヤドカリですよ。
有能ヤドカリの殻を燃やしたら火が他に散ってアトマ姫とボブさんに「おとなしくしていて」とお願いされたのは昨日のことですねぇ。ヤドカリが爪を地面に突き立てて、しばらくするとセンギリウサギが出現しましたよ。そう、ヤドカリは前座ですからね。
「そぉい! 『雷電球』で来世にまた逢いましょー!」
リリーお姉ちゃんがなにか球体を投げつけると耳がキーーンッとなる爆音と光の明滅。雷光っぽい感じとパリッと肌がピリつく感じにちょっと苛まれましたよ。
「……っ! 危ないもの投げるなら事前に伝えてください! リリーさん!」
ちょっと躊躇った後、リリーお姉ちゃんに苦情を申し立てるティカちゃんです。さすがティカちゃんですね。
「あ、ごっめーん。私の攻撃って半分くらい爆弾投げつけの範囲攻撃だから気をつけてねぇ」
「ケイブさん、ご存知だったんですね?」
キッとティカちゃんに睨まれたケイブさん、ちょっと気圧されつつも頷いてますよ。
ティカちゃんに私も睨まれましたが。
「あ。私リリーお姉ちゃんの戦闘らしい戦闘ちゃんと見るのはじめてだよ。びっくりした」
こーめーちゃんではアッファスお兄ちゃんが戦ってましたし、『豊穣牧場』ではフェンネルさんと喧嘩していて私たちから遠い位置で争ってましたからね。まともに注意して見てませんでしたよ。
「ごめんねー。次からは防光布で視界を覆えばたぶん大丈夫。視界チカチカしちゃってる? 自己回復できそう? 状態異常系にハマっててキツそうなら目薬使う?」
防光布は鉢巻みたいに巻いておけばいいらしい護符だそうです。私の装備は基本ルチルさんからもらったリリーお姉ちゃんのお下がりなのでそのへんの状態異常対策は処置済みらしいですよ。
「自分でなんとかできます」
「そっか。周囲警戒いる状態で感覚奪取は問題よね」
憮然としたティカちゃんにリリーお姉ちゃんは笑って済ませましたよ。現在のところセンギリウサギとヤドカリは無事倒され、ドロップ品をケイブさんが集めに回っているところです。
「おい。カリヤドの門鍵ってあるぞ」
青い木札の付いた鍵がリリーお姉ちゃんに投げられます。
「やったぁ。鍵ゲット! あー、使用者限定なんだー。木札に呪言で私の名前が刻んであるっぽいわ。討伐者だけが鍵を手に入れるわけだ。ふむふむ」
いろんな角度から見てふぅーんと唸っているリリーお姉ちゃんです。
「できれば、ティカちゃんにもケイブさんにも鍵を拾って欲しいわね。そして、複数の試練魔物を倒した場合ふたつ目の鍵とかちょっと気になるわね。ああ、今度、単独でも来なきゃダメね。ヤダ。やっぱりすごく楽しい」
昨日、私たちは脱出主目的で迷宮を出入り口直行で行きました。今日は違うのでリリーお姉ちゃんの希望にはそえるかもしれませんね。
「リポップ確認に他回ってから戻ってくればいいだろ」
ケイブさんがそう言って安全区画を探そうと促してきましたよ。夕方まで活動するなら安全区画は見つけておいて損はないですからね。あと出入り口や他の階層への道。
「試練魔物じゃない通常魔物の戦力も確認したいよね。あんまり強くはなかったし、次はティカちゃんにいってもらっていいかな? あのウサギさんはちょっと行動早めっぽいからケイブさんを盾に使いながらやってみよっかー?」
ウサギがくるとは限りませんけどね。
あれ?
私の戦闘練習は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます