第437話 迷宮は四人で。

「よかったんですか?」

 ティカちゃんがリリーお姉ちゃんに不思議そうに尋ねていますね。わかりますが。

「えー。最善の判断だと思うよー。実際迷宮の入り口はあったし、ひとつの鍵で通れる人数に制限があるのは想定内だけど、実際何人かはわからない。というか、条件がわからないわけじゃない? ひとつひとつ解明しなきゃねー」

「意外と考えてるんだな。本能だけじゃないのか」

 ケイブさんが腕組みしながら感心したように述べてますね。

「男性ひとり、女性さんにんでネアたちも入っているし、案内は猫が四匹でしょ? ひとつの鍵で四人はほら、想定内。もうひとり女の子誘えていたら性別同一パーティの可不可が確認できたんだけどねー。私たちにも試練と鍵くれるといいんだけどな」

 リリーお姉ちゃん、そんなこと考えていたんだ。

「そこまでひどい迷宮でもなさそうだしね」

 ひどい迷宮?

 不思議そうだった私にケイブさんが頭を鷲掴みしてきますよ。え? 腕おきにも低い? 腕置きでも手置きでもないですから当然だと思いますよ。

「ひでぇ迷宮だと、正規じゃない『入り口』を通ったらバラされるんだよ」

 バラされる?

 ぎゅっとティカちゃんに手を握られましたよ。

「一緒に入ったパーティメンバーがひとり欠けていたり、全員が違う場所をはじまりの場所にされてるってコトよ。上の兄さんがそれでパーティメンバーを失っているの」

 パーティを組んでいるってことは単独探索者としては成り立たない人でも探索できる状況を作ってるわけですよね。採集者が護衛になる冒険者に同行してもらうように。戦闘が得意な者が戦えずとも回復の力を使える者(水が出せればなおよし)に同行してもらうように。

 それはバラされるとマズいと思います。

 熟練者に見習いがついていっているってこともありますね。そういえば!

「つまり、すごく危ない?」

「そうだな。迷宮は危ない場所なのは間違いない。指定の迷宮では稼げず、記録に残り難い管理の甘い迷宮を探して潜る冒険者もいるな。バラされる転移陣が三割あることも少なくない。おれは、うん。治療費と武器装備の破損費でいつだってカツカツだった」

 あ。

 だからって十歳児に八つ当たりするってサイテーですからね。

 ですが、基本はこんな得体の知れない迷宮に入ってはいけません。が言いたいんだなと理解しておきます。

 ティカちゃんが「ネアに問題なくてもねぇ」とチラチラ見てくるのはちょっとイヤなんですけどー!?

「楽しい素材探しだし、ハグれたら安全区画見つけておとなしくしててね! ちゃんと見つけてみせるから!」

 リリーお姉ちゃんが頼もしいです。

「で、なんでおれだったんだ? 年上の男なら他に二人いたろうが」

 直接『アッファスお兄ちゃん』じゃなくていいのかと聞かないのがケイブさんの純情さかもしれません。

「いいのよ。あの二人じゃティカちゃんとネアちゃを担いで走れる距離短そうだしね。安定悪そうでしょ?」

 一番身体が大きく体力があるのは確かにケイブさんでしょうね。はい。

「いや、おれだってせめて片手はあけておきたいぞ?」

「その時はひとりは背負えばいいでしょ。一緒に行動してて移動時にそれだけの速度の確保が必要な場合、私がちゃんと過剰防衛してみせるから安心してねぇ」

 にっこりと笑うリリーお姉ちゃんにケイブさんが撃沈させられました。小声で「過剰はやめろ、破壊はやめろ」と呪文が聞こえているような気もしますが、気のせいということでいいと思います。

 ネア・マーカス十一歳、もしや移動は担がれてが前提じゃないですよね?

「歩幅の差と疲労度とかはちゃんと配慮しないとね」

 リリーお姉ちゃんがにっこりですよ。

 アッファスお兄ちゃんを排除したの、ダメ出しされないようにだったりしないですよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る