第433話 世間知らずですよね

 その後、最後の試練だけは私がフロア焼き尽くして終わりました。

 なぜか三人ともに思いっきりひきつった表情で見つめられたんですが、ちょっと傷ついたネア・マーカス十一歳です。

「ぁあ! 『ふかいばくふ』がガイド召喚不可になってるぅ!」

 ロッサ嬢、そういう情報は秘匿すべきでは?

 周囲の状況を特に意識せずやっちゃうのはちょっと理解できてしまいますけどね。


【あの『書物』にすべての魔力を与えることでその土地に付随する迷宮の情報を読み取り、干渉して『自分に比較的友好的な案内』を召喚しているのでしょう。なかなか使い方によっては迷惑な方になりそうですね】


 へぇ。


【案内を呼び出す以外にもおおまかな迷宮情報を取得しているので『複合迷宮』と判断されたようですし、秘匿エリアを構築すべく対策を練るべきでしょう】


 あー、こっちがより強い魔力持ってられるように魔力叩き込んでいく方針が大事ってことですね。あの『書物』のカタチをしたものはスキルの具現化でしょうか? それなりに魔力が必要では? 貴族血統ならではの高魔力? なるほどですね。


【戦闘力が低いようですから迷宮に入り浸って魔力や基礎能力を高める機会がどれほどあるかというところでしょう】


 つまり護衛による接待探索が有益なんですね。それ、死にません?

 迷宮では突発事故は有りがちですし、荷物袋あってもあの戦闘力ではひとりになれば難しそうです。

「アトマ! 大丈夫だったかー?」

「ウェイカー! 姫さまって呼ばなきゃって言ってるでしょ!」

「っせーなぁ。ヒメサマ、ヒメサマ無事かー? あ。相変わらずチビだな。元気だったか?」

 ウェイカーくん、その対応はいろいろダメだと思う。

「大丈夫ですよ。グウェン、ウェイカー。帝国の方も居られるのですこし控えてくださいね」

 あー、普段ならきさくな呼びかけ気にしてない感じですね。だからウェイカーくんも直せないまま今に至ってしまってるわけですか。

「では、私はもう行きますね」

 ウェイカーくんとグウェンお姉さんがそばに居るならアトマ姫も問題ないでしょうし。

「ええ。また会いましょう。ネア」

「機会があれば」

 そう答えて私は高貴(一国の姫と帝国貴族のお姫さま)な方々からはなれますとも。ロッサ嬢からの引きとめる声? 聞くわけないじゃないですか。

 さくさく移動したんですけど、移動先にガジェスくんが待っていて送ってくれることになりましたよ。

「ウェイカーくん、野放しで大丈夫?」

「グウェンがいるから大丈夫。揉め事に関しては学生ギルドと教会に届けてあるからたぶん、ネアにはあまり影響はないと思うけどさ、えっとしばらく周囲に気をつけるとか頼りになる大人に相談しておくとかしておくとイイよ」

 これ、ロッサ嬢が動かなくともロッサ嬢の取り巻きはまずい事になっているやつですね。主犯がロッサ嬢になっちゃうんでしょうか?(そこは違いそうですが)

「アッファスお兄ちゃんに相談しておきます。アトマ姫無関係でも絡まれ気味でした」

「あー。あのお姫さま、懐っこいよね。ウェイカーにもちょっと懐いてる」

 知り合いのお姫さまなんてアトマ姫様だけでいいのに。なんてガジェスくんはぼやいていますよ。お姫さまのそばにいればお姫さまの知り合いが増えていくものではないのでしょうか? 

「きっと、もっと増えますよ? 私は避けたいのでできるだけ関わらない努力をしていきたいですよね」

 絶望顔したガジェスくんがきっと私を見ますね。なんでしょうか?

「ネアもきっと避けられないから対応は初期に学んでおいた方がいいよ。貴族に対しる振る舞い講座とかありはするからさ」

「貴族は一般留学生に干渉しない方針とかないんでしょうかね!?」

「ないよ。目立ってば自動的に寄ってくるよ」

 つまり、私が目立たなければいいんですね。よかったです。

「無自覚に目立つネアにはないものねだりになるだろうから、適切な対応を教えてくれる大人を早く見つけるのが大事だと思うよ」

 ……。

「ないものねだり?」

「うん。ないものねだり。三番市街って結構ごちゃごちゃしてるんだね。まだ九番市街と十番市街しか散策してないから、ちょっと面白い」

 十番市街は第十総合学舎、少しは読み書き及び冒険者としての経験を積んだ冒険者用の冒険学科があったはずです。ついでに貴族街も近く、他国の貴族留学生や王族留学生が現地護衛(学生)を雇うのにも使われるそうです。

 一番総合学舎は名前だけでも書ける子や学のない人たちがまず、最低限を学ぶ学舎だそうです。最低限を知らなければ本人の適性も夢もわからない。そのきっかけをつくるというのが第一総合学舎のお題だそうです。

 それぞれに掲げるお題があるのすごいよね。とガジェスくんに教えてもらって「え。知らなかった」を連発していたネア・マーカス十一歳。まだまだ世間知らずですよ。

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