第432話 国際問題なんですか

 ギフトスキルって適性がなければ弾かれるだけかと思っていたんですが『ロスト』。スキルを一旦受付けてから消失というのは金銭的にも期待値的にも辛いものがありそうだなと思うネア・マーカス十一歳。どんなスキルギフトもきっちり定着するタイプです。

「対価はお支払いいただきますから」

 アトマ姫がにこりとボブさんに宣言していましたよ。

「ちゃんとお父さまにお伝えするわよ?」

 ボブさんの顔色の悪さを無視してロッサ嬢がおっしゃいますね。

「あ、あのですね。お嬢様」

「なぁに?」

 ボブさんの顔色、本当に悪いですね。

「草原の国の姫君ですよね?」

 ロッサ嬢に言い含めるように問いますね。

 アトマ姫は草原の国のお姫さまで国の迷宮神子ですよね。

「そうね。お兄様の奥さん候補のひとりでしょ? なら仲良くなれた方がいいでしょ」

 けろりとおっしゃいますが、小姑宣言ですか?

 それはさておき、知っている限りアトマ姫拒否方針ですよね。

 ボブさんが頭抱えてますね。もしかして『いっそ殺して』はこの展開を読んでらっしゃったんでしょうか?

「お嬢様は帝国ロサ公爵代行様のひとり娘ですね」

「ええ。そうよ。将来的には公爵家の第二夫人だわ」

 にこにこと言いますね。……つまりアトマ姫を妻仲間として仲良く……?

「そうですねぇ。ですが、今は横に置いておいて」

「置いておくの?」

「置きます。草原の国は独立した国家であり、帝国の属国などではありません」

 あ、なんか、社会情勢の講座みたい。

「うん。そうよね。知ってるわ。草原地帯が多くて所々に玉蜀黍畑があるんでしょう? 地上の魔物も出没するのにその環境で農業とかすごいよね」

「よくご存知ですね。ですがそこが問題ではありません」

「もん、だい?」

 私もわかりませんよ。アトマ姫はボロネーゼの作った赤いスープを口に運びながらにこにことしていますね。

「私が学都での拠点にいる保護者にどこまで報告するかをモービックさんは危惧なさっておられるんですよ」

 留学中の草原の国の王族はアトマ姫だけではないらしく、国から帝国との交渉役兼王族の世話役の人がおられるそうです。

「一緒に迷宮に紛れこんで一緒に探索した折りに『スキルギフト』を貰ってロストさせた?」

 さらっと状況をまとめるとそうなるんでしょうかね。

「縁を紡ごうとしない相手を襲わせた結果、休眠中迷宮に侵入巻き込まれ、戦果を伴わない『ギフトスキル』をねだり、ロストさせた。ですね」

「え? 私襲ってないし、指示もしていない」

 あー。

 そういえば、ボブさんは襲撃チームのメンバーでしたね!

 忘れていました。


【どうして忘れられるんですか】


 いやぁ、興味なくて。

 天職の声さん、こっちに意識割けるようになったんですか?


【いいえ。忘れていらっしゃるのが不思議で】


 だって、動きは面白かったですけど、私の行動の影響範囲には基本存在しないと思えたもので。

 そういえば、他のごろつきさんたちはどうなりました?


【彼らはささやかながらも迷宮の糧になりました】


 あ。

 はい。

「お嬢様はご存知なかったことなんです。姫さま」

 ボブさんが深く頭を下げています。

 でもねぇ、出てきて接触しなかったのなら通っても、現れた上に『自分の護衛』としてボブさんに親しげにしてしまえばそれはまさに黒幕。もしくはこの場合公爵代行や次期公爵の関与が疑われてしまうのでは?

「そしてこのことは公爵代行様も次期様もご存知ありません。是非金銭での解決を!」

「あら、それはそれで管理監督不足なのですね。わたくしには難しいことは未だわかりませんから兄様や姉様、世話役の方に縋るだけですわ。わたくし、まだまだこの学都に慣れぬ子供ですもの」

 にっこりとアトマ姫が微笑むのですが、あー、これ、よくわからないけどコワイ奴だ。知ってる。

 だから、ロッサ嬢が兄弟多いのね。楽しそうね。ときらきらアトマ姫を見ているのは間違っていると思うんですよ。

 えーっともしかしてコクサイモンダイって奴だったりしますか?


【もしかしなくても国際問題になるでしょう。責められるのは次期公爵でしょうが。あと、現在貴女も留学生ですからね。不適切な行動者はボブ・モービットとニーソレスタ・ロッサですよ。『スキルギフト』が代金未払いなのは間違いなく学生カードに記録されていますし】


 へぇ、学生カードそんなふうにも使えるんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る