第429話 おともだちとは

「複数迷宮を持つ国では心得のない者を養育していこうという迷宮が生じやすいんだそうですよ」

 アトマ姫の言葉に追従するボブさんを見ながら納得しているネア・マーカス十一歳です。

「草原の国には迷宮はひとつしかありませんが定期的に入り口が移動しながら成長していく回遊性迷宮と呼ばれていますね」

 迷宮にはいろいろと個性と特性があるそうです。ただの事実ですね。

 聞くところによると『丘陵公園』は実際十階層ほどの初心者向け迷宮で気軽に迷宮核にたどり着くことができる迷宮だそうです。初心者にはそれなりに嬉しい報酬を提供してくれるそうです。ですから百戦錬磨の強い冒険者は挑戦禁止ですし、護衛として入る場合迷宮核を攻撃しないという誓約書に署名しなければいけないそうです。

 ここは雰囲気も植生生態系も『丘陵公園』であるとしか判断できない迷宮だそうです。

「だから、大丈夫でしょ? 虫とか嫌いだけど虫除けの香り袋持ってなくてヤダけど」

「普通なら頷きたいところなんですがね、お嬢様」

「頷けばいいじゃない?」

「他の探索者がいない時点でここは『丘陵公園』ではないんです、よ。魔物の強度が同じくらいであるとは限らないので戦闘時にお嬢様を守りきれる自信が俺にはありませんよう」

「でも平和じゃない。二人も居るし」

 当然とばかりに私とアトマ姫を戦力に数えますね。

「あら。どうしても協力しなくてはならないわけではありませんからね。わたくし、今から別行動でもかまわないのですけど」

 アトマ姫がチラッと私を見ますよ。私としてもロッサ嬢と縁を深める心算はないんですよねぇ。

 ボロネーゼちゃんがロッサ嬢についているとしても戦力に問題がない私とアトマ姫なら問題なく迷宮からの出入り口にたどり着くことはできると思うんですよねぇ。

 あと、あんまり騒ぐ気質は猫ちゃんたちはあんまり好まないんじゃないかと思ってしまうんですよね。

『採取終わったなら進むにゃ。通行料代わりの関所は人数分にゃ』

 チドメバナの他にも気になる植物はあるんですが、とりあえず進むことを優先して行こうと思います。赤い花びらが地面に新しく散ることもなくなったようですし。

「だってネアちゃんは入試の時すでにいろいろできてたもの。ボブだってお兄様が認めた護衛だもの。なにを心配するの?」

 それはたぶん、私とアトマ姫が別行動を選択することではないでしょうか?

 あ。ボブさんがそっとお腹をさすりましたよ。無茶言われるとおなかシクシクしますよね。わかります。

「ですから、別行動しましょうか?」

 アトマ姫がもう一度提案してきましたね。

「あ、私はアトマ姫に同行しますよ」

 その時は。ええ。

「えー。せっかくおともだちになれたのに?」

 は?

 おともだち?

 え?

「いろんなおしゃべりをしてあぶないことも一緒に乗り越えたおともだちでしょう」

 にこにこ無邪気に告げられてちょっと、いえ、かなり困惑します。

「そうですわね。おともだち、とは言えませんが顔見知り、知り合いとは言えますね。わたくしたちにニーソレスタ・ロッサ様と同行する利点が現状ではありませんけれど」

 にこりとアトマ姫が突きつけます。

「えー。お兄様に紹介するよ?」

「結構です」

 のほほんと兄を紹介すると言うロッサ嬢をピシリと拒絶するアトマ姫。男に選ばれるより男を選べる女を目指しているアトマ姫にとっては不必要な案件ってヤツですね。

 え。

 私は会いたいと思ってませんよ。貴族なんて面倒くさい。

「え! どうして!? お兄様は成人次第ロサ公爵だよ? カッコいいし、魔力も高いし、王族との距離も近いんだから」

 それ、『お兄様』の立場的特典……一応カッコいいとか魔力高いとかは個人能力?

『第一の試練だにゃー』

 え?

 敵は私たち小娘集団と同じくらいの大きさのヤドカリでした。

 焼きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る