第428話 迷宮内迷宮
「長閑ですねぇ」
赤毛のにゃんこボロネーゼちゃんが案内してくれる迷宮内はぽかぽかの日差しがやわらかな整備された木立ち、ゆるやかな丘陵。小川のせせらぎが聞こえる長閑ないわゆる『管理された田舎風景』です。
背景のように蝶が舞い、けもの道のわきに咲く野花を揺らせていますね。ときどき薬草や香草のたぐいが混ざっているようです。
「変なのー。『フカイバクフ』の入り口をくぐったのにココ『丘陵公園』じゃないの」
不満そうにネコジャラシを蹴っ飛ばして揺らすロッサ嬢ですね。ネア・マーカス迷宮学都の迷宮の種類や名前なんて知りませんからね。
ボブさんが語るには『丘陵公園』は十階層ほどの初心者向けの迷宮だそうです。特に強敵もおらずいろんな業種の基礎素材や練習素材が採れるし、デートやピクニックに選ばれやすい迷宮だそうです。
「他の探索者がいないのでウラなのかも知れませんね。『丘陵公園』は低階層迷宮でありながら迷宮核に触れても影響が少ないと言われていますし、破壊できないそうですから。巡回警備兵いますけどね」
あー。『石膏瓦解』もそんな感じの二重構造でしたね。たぶん、同時に破壊しない限り迷宮核も主もダメージ受けつつ致命傷にはならないようになってるんだと思います。安全機構必要ですよね。
「んーっとね、『フカイバクフ』はフクゴウ型迷宮なんですって。全体としては『フカイバクフ』だけど、本当の『フカイバクフ』にたどり着くことは難しい感じなのかしら?」
謎の本を閉じて抱きかかえたロッサ嬢が小首を傾げてますね。
上下関係なのか、協力関係なのかどんなものなんでしょうね?
迷宮主にも個性がありますからね。
あ。
止血効果のあるチドメバナの群生地です。白い花びらが傷に貼りついて真っ赤に染まると傷も塞がり花びらも勝手に落ちるんですよね。そして落ちた場所でチドメバナが群生地をつくるんですよね。チスイバナともイヤシバナとも呼ばれるそうです。教会や診療所、迷宮の入り口付近に群生地が多いのが特徴でしょうか。
魔力の吸収性がいいので魔力や血液を含ませてから魔法薬の中和剤原料になるんですよね。錬金術師も使うし薬師の方々ももちろん使います。難点は劣化のはやさだそうですよ。
「すこしお花摘みますね」
ひと声かけてから品質の良さそうな花を選びます。採取方は花柄で綺麗に折ることです。そして花びら同士が触れ合わないように薄い木片で挟んで荷物袋に放り込みます。もうすこし大きければ花びら一枚でちょっとしたすり傷も覆えるのでしょうが花びら一枚で覆える傷は指先の針刺し傷ぐらいなんですよね。つまり、数が必要です。あと回復には本人の魔力も要るので傷なしで赤いチドメバナに包まれたイキダオレさんも時折り居るんですよね。使用要注意なヤツです。
「そんな地味な花がすきなの?」
ロッサ嬢が屈む私の手元を陰にしながら聞いてきますよ。聞くのはいいですが立ち位置考えてほしいですね。
「チスイバナ、かしら? 資料では見たけれど、実物はこんなに小さいのね」
「え、血を吸うの!? ヤダ。魔物植物ってヤツ!?」
傷口から吸血はしますが傷も塞いでくれますし、あばれつる草よりずーっとおとなしいですよ。
というか、この世界で迷宮関連生物なら魔物枠でしょうから、魔物じゃない存在っているんですかね? 私たち含めて。
「あー、お嬢様、チスイバナ、イヤシバナ、チドメバナとも言いまして本人の魔力の残量に要注意ではありますが、資金の少ない庶民が愛用している傷薬みたいな植物なんであんま踏み荒らさないでいただけると助かります。はい。あと通常の『丘陵公園』ではないので強魔物がでないとも限りませんから姫君もおじょーさんももうすこし騒がないでいただけると助かります。はい」
私とアトマ姫は騒いでいませんが、なにか?
あ、私たちをダシにしないと言い難いんですね。わかりました。
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