第427話 気持ち

【貴女が気にすることはありません。貴女は今必要な守り手なのですから】


 天職の声さんがおっしゃいますね。

 でも納得していないのも感じますね。


【そう、ですね。ですが納得していないのは自身の行動力ですから。守ることができなかった。気がつくのが遅れてしまった。それは己が不足ですから】


 そうなんですよね。天職の声さんが声を届けてくださったのは十歳の大越を過ぎてからですものね。おそらく十歳というのはいろんな決まり事の鍵になっているのかも知れません。


【いえ。遠隔地に声と意識を届けることに不備が存在しただけです。こちらを完全封鎖することは先々不利益に繋がりますし】


『つまりぃ、ボクらに迷宮を任せられるようになるまで姫さまに付き難かったのぉ。ごめんにゃー』

 ジェノベーゼちゃんが私の背中によじ登りながら教えてくれますよ。

『あと、主さま狐嫌いだし』

 欠伸しながら真っ黒サンディちゃん。


【おまえたち、不要な発言は許可しておりませんよ】


 あー。

 マコモお母さんが苦手なんですね。ちょっと癖のある人ですからね。マコモお母さん。

 天職の声さんが『私』と契約したのっていつなんですか? 素朴な疑問なんですが。


【もちろん、子種に魔力が注がれる前ですが?】


 ん?

 なにそれ?

 いや、ちょっと待って。似た話を聞いた気もする。えっと、どこで?


【……『天上回廊』では?】


 あ!

 アヤちゃん!

 迷宮(主だか核だかが)が産まれるための魔力をたまごに注いでた!

 え?

 つまり、もうひとりの……。

「おかーさん?」


【違いますから】


 即答でした。

 つまり迷宮と神子の関係は産まれる前から始まるのですね?


【多くは生まれてからですが、古い血統ではわざわざ迷宮核に触れて子を望むことも少なくはありません。確かにその時点で親は迷宮核にたどり着く力量を保持しているのですから迷宮核には認識されています。好意を持ってもらえるかは運でしょう】


 あー。

 侵入者でもあるもんねぇ。

 迷宮主の性質によっては『敵』だよね。

 たまちゃんみたいに『人は嫌いじゃないけど、特定属性却下』なこともあるし難しいんだ。

 ツンデレもそのデレが相性に合わなければ煩わしいだけだし、そこは理解ですよ。

 物事はすべからくあうあわないが存在しているんですよ。

 ということです。


【はい?】


「私は、どちらかといえば華美でない方が落ち着くのです」


【つまり、監獄がお好み……】


 違います。

 金ピカとかガラモノとか多過ぎるキラキラとかが多いと落ち着かないと言っているのですよ。別に檻に入っていたいわけじゃありませんよ。結構すぐに気にならなくなってますけど。あれ、なんで毎回檻に入れてくるんでしょうね? 立場が上なのは私だと思うんですけど。

 そこはどうでもいいんですよ。なんていうかシャンデリアよりシンプルな蝋燭やランプ。ガラモノより無地の濃い色か生成りが好みなんですよ。

 飾り彫りのテーブルよりシンプル。……まぁ、テーブルと椅子は少しくらいは譲歩できますし、普通に木の彫刻家具は多分、気にしないでいられると思うんですよ。比較的側に彫刻が趣味な人がいましたからね。置き場所に困ると押しつけてく……まぁそれはどーでもいいんですよ。どーでも。

 ということですから、猫広場ではない迷宮管理空間、『お姫さまのお部屋』ってテーマっぽいお部屋は非常に私が居た堪れないので、私のいつきやすい内装を希望します。

 その後、少々聞き出したところによるとどうやら『私』の実母の趣味が反映されていたそうです。

 あー。

 実母の『理想の娘』からも外れてしまうのですね。

 えー。

『お姫さまのお部屋』にも私が慣れればいいのかな。

 数日、違和感を乗り越えれば気にならなくなる気はするしなぁ。

 実母、草葉の陰で不出来な娘を嘆くのかな。それは申し訳ないような気も……。


【伏せってはいますがご存命ですよ?】


 はい?

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