第426話 迷宮の四猫
『ボロネーゼにゃ!』
『にゃーーん』
『こっちの白いのはカモネギウドンにゃ!』
『……サンディ……』
『ボクはぁ、ジェノベーゼ。いっぱい遊んでねぇ』
ぴゃっと前脚をかかげる赤茶色の猫のボロネーゼ。
ちょんとお座りして白に縞の猫のカモネギウドン。
まるく伏せてそっぽ向きつつ真っ黒い猫のサンディ。
ぴょんぴょん跳ねてる瓶覗色の猫のジェノベーゼ。
四匹のにゃんこに名乗られている迷宮管理者ネアです。
多分ここ『腐海瀑布』は天職の声さんが主だか迷宮なりを務めている迷宮ですね。
もちろん、腐海さんやバクフンなんて呼びませんよ。
これまで通り、天職の声さんは天職の声さんですとも。
天職の声さんは今迷宮の調整中でお忙しいようです。
私、支配した覚えがないのですが、なんか、既に私の管理下っぽいんですけどどういうことですかね?
【同期調整完了です】
「じゃあ、軽く戦闘しつつ、出口にボロネーゼちゃんが案内してくれるのね?」
天職の声さんの発言を流しつつボロネーゼちゃんに尋ねますよ。
名指しされた赤茶色の猫ボロネーゼちゃんがバチっと目を見開きましたよ。かっわいい。
『そうにゃ! にゃーずは姫さまを優遇するために主さまに用意された案内役にゃ!』
姫さま?
『十年ちょっと前から準備をはじめて姫さまが姫さまとわかった時点でボクらが選ばれたの』
あー。
天職の声さんは『私』が産まれる前後から『私』の為に準備してきたんですね。私のためでなく、『私』のために。
『姫さま、……猫好き?』
んー。
私は猫好きだし、『私』も猫好きだと思うけど、この子達は私じゃなくて『私』のために用意されたんだよね。私が姫さまと呼ばれていいものか少し悩ましいですよね。
『にゃーーん』
カモネギウドンちゃんが撫でろとばかりに飛びついてきますよ。やだ。かわいいですね。
『私』は猫は好きですか?
この迷宮管理空間は天職の声さんが『私』の為に整えていたんだと思うんですよ。
若草色主体の柔らかな床のイメージは草原。壁から下がる枝葉に花。
猫達の通り道であろう柱がたくさん。
『私』からの反応は返らないものの不快感は感じませんね。
『主さまが迷宮を封鎖して出られて五年。姫さま連れて戻ってこられて一安心にゃ』
ごきげんな猫達になんとなく申し訳なさが募りますね。
彼らが待っていたのは『私』であって私ではありません。
なんと言いますか、用意された愛情を感じるほどに自分の居場所じゃないことを突きつけられているので息苦しさを感じますね。
『姫さま?』
だって彼らが悪いわけではありません。
【貴女が悪いわけでもありませんよ】
ええ。
私が悪いわけでももちろんありませんよ。でもね。と思っちゃうんですよ。
認識しているのと解っていることは別なのです。
『主さまね、姫さまが他の主さまと通じられること嫌だから呼びこんだ』
黒い猫がヒミツよと囁きましたよ。
聞こえる声で。
通じられる?
他の?
【まだ調整が必要ですのでお気をつけて】
ん?
天職の声さん?
迷宮の調整まだあるんですね。
『腐海瀑布』が対応している場所はあまり人の住む地区ではない場所らしいですね。
管理目録は分厚く、機会を見繕って確認していきたいと思いますよ。
今、私が理解できたことは天職の声さんが配下にはくっそ甘いってことでしょうか?
四色の猫達がいろいろと悪意なく密告してるんですがいいんですか?
『ボロネーゼがちゃんと案内するにゃ!』
『にゃーーん』
「お外では余計なこと言っちゃダメですよ?」
だいじょうぶ? この子たち。
『おまかせにゃー』
えー。
ちょっと心配ー。
でもきっと私、笑ってますね。
この子達かわいいですから。
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