第424話 にゃんこ大好き

 しぶしぶ名乗ったネア・マーカス十一歳ですよ。

 護衛のお兄さんはボブ・モービットさんとおっしゃるそうです。「覚えなくていい」と言われたので忘れてしまっても怒られなさそうです。

「ええっと、この迷宮は、『ふかいばくふ』です! 複数の迷宮の集合体が進化最適化した迷宮だそうです」

 なにか冊子本をパラパラめくりながらロッサ令嬢が宣います。

 迷宮の名前を調べる便利道具ですか。いいですね。

「こんだくたー召喚が使用できるようですし、呼んじゃいますね!」

「!? 待ってください! お嬢様。なにか説明は書いてませんか!?」

 ボブ氏とても慌てています。わかります。なにしでかすんだよって感じですよね。

 おもしろいですが、はなれて見ていたいアレですよね。

 こんだくたーってなんですか? え。わんだりんぐふろっげーやエリアボス蛇みたいな案内役的存在?

 解説ありがとうございます。天職の声さん。

「えー。魔力に応じて案内と試練を。ですって。こんだくたー『ふかいばくふ』、『招来』です!」

 あ。ロッサ令嬢迷わずに『YES』をタップするタイプの人種だ。

 ん?

 試練?

 金髪ポニーテールがふわんと魔力で立ち上がり、ついでにロングスカートの下履の重ねられたふわふわペチコートと縞々長靴下があらわになってますよ。なんでその格好で迷宮方面に来ようと思えたんですか。防汚強化処理済みですか? お金持ちですか……。お金持ちでしたね。

『にゃーーん』

 白い毛並みのにゃんこです!

 ぽわんと白い煙と共に召喚されたのは超キュートなお猫様です。

 鳴き声もにゃーーんですよ!

 にゃんこ!

 知ってます。騒いじゃダメです。白猫ちゃんのペースに合わせねばならないのです。

『我が召喚せし魔物と闘い、門を潜るに相応しき力を示すがよいにゃ』

 赤茶色の毛並みのにゃんこがお喋りしましたよ。にゃんこがお喋りですよ!

 ヤダなにかわいい。


【あの、大丈夫?】


 にゃんこかわいいですよね!

 え?

 天職の声さんも実は猫派だった?

 ヤダ。

 言ってくれれば盛り上がれたのに?


【ただ無作為に小動物がお好きなのかと】


 まぁ、好きだけど。

 でも猫は特に好きよ。

 試練って難しいのかしら?


【いえ、迷宮への入り口を開けるかどうかだけの試練ですから、それほど難易度は高くありません。『石膏瓦解』での大蜘蛛と同程度の魔物ですよ】


 それ、面倒臭い奴では?


【そうかもしれません。それが試練です】


 そうですか。

 ところで天職の声さん。


【はい?】


 白猫ちゃんと赤猫ちゃんにお名前はあるんですか?

 おしゃべりしてますし、あるんですよね? 


【白い方が確か『カモネギウドン』赤い方が『ボロネーゼ』ですよ】


 かつての故郷に『うどん』という麺料理があったのですが……あと『鴨鍋』とか。

 ……気にしちゃダメですね。

「え! ボブ、猫ちゃんを殴るの!?」

「お嬢様、アレは魔物ですよ!」

 試練の魔物はちょっと大きいにゃんこでした。

「ウィングキャット系の魔物ね。抗魔力が高くて空飛ぶ魔物としては厄介だとされているわ。毛皮も分厚いから剣も通りにくいのよ」

 アトマ姫が解説を入れてくれましたよ。

「えー! かわいいのに倒さなきゃなの!?」

 まぁ、試練だしね。

「当たり前です。試練の魔物を倒すことによって人は迷宮を進むことを許されるのですから」

 アトマ姫が『当然の事』をピシリと突きつけます。

 そうなんですよね。

 迷宮の試練は乗り越えてこそ迷宮に認められるんですよ。

 試練に参加する事でその魔力を迷宮に贈ることになるのです。

「わかりました。ロッサ様、初手お任せします。どうか魔物を鎮めてみてくださいませ」

 アトマ姫の物言い、ちょっとキツめですよね。

「あら、ボブにも難しいかしら? 護衛に選ばれるくらい強いんですもの、ね?」

 私、あとでかまわないのであのにゃんこと触れ合いたいです。天職の声さん。


【……手配しておきましょう】


 ありがとうございます。


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