第423話 お喋りな令嬢
ざぁざぁと水が流れ落ちています。
これは滝という奴ですね。
ぽつんと張り出した岩の上にのっているネア・マーカス十一歳です。アトマ姫もそばにいますね。
「貴方以外は皆落ちましたわね。確認しますけれど、わたくし達を殺してほしいというご依頼でしたの? わたくし、これでも一国の姫であり、迷宮神子のはしくれなのですけれど?」
「いや、ちょっと脅せって依頼だったハズ! なにもしないから上がらせてくれ! いや、上がらせてください!」
お兄さんは張り出した岩の下にロープでぶら下がっているのです。
「私の護衛なので落とさないでね。アトマちゃん!」
え?
「ニーソレスタ・ロッサ様」
アトマ姫が者すっごくいやそうな顔でぴょんぴょん降りてくる金髪少女を見つめていますよ。
護衛だったらしいお兄さんは一瞬、沈黙した後、なぜか奇声をあげ「ロープ切って! いやだ! 責任なんて俺にはとれない! いっそ殺してッ!」とまくし立てていたんですが、トンっとたどりついた金髪少女(記憶によるとポンコツ)は容赦なくロープを釣り上げ「無事でよかったわぁ」とにっこにこでした。
意外に強い? 成長したのかな?
「あら。同じ講座を受けているお友だちじゃない。ソレスタと呼んで。アトマちゃん」
私の九歳児呼びもアレ、そう無礼ですが、アトマちゃん呼びも失礼では?
「もちろん、貴女もよ?」
え。こっち見た。
「入学試験以来よね。また会えて嬉しいわ。私はニーソレスタ・ロッサ。ソレスタと気軽に呼んでね!」
え。
関わりたくないです。
「お嬢様。おつき護衛はどうしたのでしょうか?」
「え。さぁ。ついて、きてないわねぇ。貴方がいるからいいでしょう?」
ぽんと手を合わせてにこにこしているロッサ令嬢の前で声を殺して叫んでいるっぽいお兄さんは『絶望』とか『不運』とか似合いそうです。不幸ですね。
「アトマちゃんを呼べるようにおはなししてくれるって言っていたから、じゃあ私も参加しちゃおうと思って追いかけてきたのよ。ちゃーんとね」
あー。『躾けてきますのでお待ちください』されたのを空気読まずに『じゃあ私も声かけに行くわね』と突っ走った。と。
行動派なご令嬢ですね。
「入試の時、コーデリア様とは少しおはなしをしましたね」
「まぁ! コーデリアったらズルい。私もお喋りしたいと伝えておいたのに! あの後、会えなくてとても残念だったんだから」
ぷくっと頬を膨らませる姿にちょっとイラッとします。
私の『妹』もこんなふうに無邪気で悪気なく周囲を振り回し、愛されていたものです。この受け入れられて当然だという振る舞いが私にとっては毒ですね。
再会はしていませんが、高位者と関わりたくない難民を尊重してくれていたらしいコーデリアさんは高評価ですね。
しばらく口を挟む余地がないくらいロッサ令嬢は囀ってました。
アトマ姫が遮るまで。
え。私は途中から意識を周囲の様子を観察することに注いでましたよ。
音をたてて水が流れていきます。上から下へと。
流れの隙間隙間から大きな岩が突き出していてそれを足場にロッサ令嬢はおりてきたようなのでここからもおりれる訳ですよね?
のぼり戻れるんでしょうか?
なんか厳しい気がしますよ?
「出るルートを探さないといけませんわね」
「迷宮なのだから迷宮核の場所まで行けばなんとかなるんじゃ?」
問題はここが迷宮のさわり、入り口も入り口すぎてどんな迷宮かもわからないってことですよ。魔物が出てこないフロアを最初においているのは『回遊海原』をはじめとしてよくあることっぽいですが。
「まず死なないように迷宮の正式な入り口を見つけなくてはいけません。あと休眠であった迷宮は罠も魔物も不足のない状態のはずですわ。間引きされていない迷宮は危険です」
アトマ姫、イラつきが声に出てますよ。
「そうなの?」
ロッサ令嬢嘆いている護衛のお兄さんに話をふった。
「はい。その通りです」
「でも、迷宮神子であるアトマちゃんも貴方もいるから大丈夫よね。貴女も入試の時いろいろできてて凄かったし」
にっこり笑顔で「ほら、大丈夫」と宣うロッサ令嬢にちょっとひいた。
「ねぇ、貴女お名前は? 今度は教えてくれるでしょう?」
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