迷宮学都生活

第421話 巻き込まれました

 学都にある憩いの公園は幾つかあり、いろんな場所に迷宮の入り口が隠れています。もちろん基本は全て管理されており、入場時には申請が必要だったりします。学生のステータスカードや帝国内で使用される迷宮通行証カードに使用履歴が残る仕様だそうです。

 月に一度、冒険者ギルドか学生ギルドで迷宮使用料が査定されるそうです。申請していない無許可迷宮に入っていた場合には罰則もあります。それでも特殊な迷宮として使用料が免除される迷宮が有り、そのうちのひとつが『玻璃の煌迷』で有り、迷宮主が直接侵入を管理している迷宮は料金が発生しないという特典があるのです。但し、安全性の不透明さゆえに推奨はされていないそうです。

 なぜ、こんなことを思い耽っているかと言えば。

「どーして九歳児の考えなしの行動に巻き込まれているんですか?」

「あら。ネア。わたくし、アトマは九歳ではなくて十歳でしてよ? ちょっと帝国貴族のご令嬢のとりまきになる気はないとお断りしただけですけど、心が狭いと思いません?」

 草原の国のツァトマ・レサーマル姫さまに身長こされましたよ。くーやーしーいぃいい。と内心布を噛んでるネア・マーカス十一歳です。

「一国のお姫さまに荷物持ちさせてさせてあげてる。なんていう帝国貴族が心広いワケないでしょー」

「それはそうなのだけど。大国の貴族としての在り方があるでしょう?」

 滅亡していくんじゃないかなって国で育った私に言われても困ってしまいますよ?

 フツーの平民暮らしでしたからね?

「田舎モンは大人しくお嬢様方にへつらってりゃいいんだよ!」

 私と九歳児改めアトマ姫が顔を見合わせて、たぶん、同じ表情をしましたよ。

 分かりました。

 私の方がお姉さんですからね。

 私が対応してあげましょう。

「へつらう相手にはやはり尊敬できる優れた姿を見せていただかないといけないと思うんです。同じ講座を受けていれば人柄もわかると思うのですけど、私はお目にかかったことがなくて」

 受験の時以外では。

「公爵家の姫とはたまにわたくしも同じ講座を受けますわ。愛らしい姫さまですけど、確かに尊敬はまだわかりませんね」

 もうちょっと聞くとその講座はトルファームで選ばれたウェイカー君たちが受けている基礎講座にちょっとだけ参加しているそうです。国でも『基礎講座』と同等の講座を九歳までに終わらせられれば有利に国力を上げられると思うなどと先を見据えたことを言ってましたよ。お姫さま。

 公爵家の姫はなんていうか可愛らしいけれどちょっと残念な印象が記憶に残っているんですよね。

「なっ、生意気なクソガキがぁ!」

 アトマ姫に絡んで追いかけていた男達(あからさまなごろつき)のひとりが短剣を弄りながら吠えています。

 すぐにでも逃げれそうな位置にいる男の表情は「うわぁ、相手にされてねぇ」って感じです。あ。目があったら逸らされました。

「街中、公共の場所で暴力は許されていませんからね」

 はぁとアトマ姫が息を吐きます。

「迷宮の入り口に追い立てられるのも危険では?」

「警備の人がいない入り口だったことは誤算です」

 まぁ、私たちまだ街に慣れていませんからね。留学生ですし。

「ハッ! 休眠迷宮の方に逃げてくれて助かったぜ。人目がねぇからな!」

 あ。人来ない場所なんですか。

「辺境の弱小迷宮しか関わることのない小娘共に身の程ってもんをわからせてやるぜ」

 えーっと、辺境の弱小迷宮しか知らない小娘共?

 いや、小娘ですよ。十一歳と十歳の。

 あ。

 十歳児アトマ姫なんで私を庇うように前に出るんですか?

 年下は後ろに下がっているべきですよ?

「あら。その小娘二人に十を越える人数で追い立てておいてよいもの言いですこと」

 本当に。

 ちょっと視線を彷徨わせる人もいてなんていうか団結力は低いですよね。

「アトマ姫。たぶん私は予定外だと思います」

 はい。ちょっと主張ですよ。

「まぁ! 十歳の小娘ひとりに十を越える人員を?」

「ふん。巻き込まれた不運はその姫様のせいだ。恨むんならその姫様を恨むんだな!」

 え?

「依頼した人か、行動した人の責任だと思いますよ? ね?」

「そうね。そう思うわ。本当にお可哀想」

 アトマ姫、そのお可哀想ってなんですか?

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