第418話 話が長いですよ!

 移動中に管理空間へ意識を落とすことをわんだりんぐふろっげーは特になにも言いませんね。と思っていたら『ここ『蒼鱗樹海』は認識阻害が多くかかっているでござる。すべての認識阻害はマイロードの有利に働くものでござる。注意は無論必要でござるよ?』と返されました。

「認識阻害ってどれほど効果あるものなんでしょうねぇ」

 ちょっと小洒落た椅子に座る迷宮管理者ネアです。目の間には『流玄監獄』氏がいますよ。

『久方ぶりのお渡りですな。姫君』

「姫と呼ぶわりには相変わらず檻の中なんですね?」

 ネアは檻の中に置かれた小洒落た椅子に座っているのです。目の前には揃いの飾り彫りを施されたテーブルがありますよ。お菓子ののった小さな鳥籠がちょっとかわいいです。

『安全を考慮した結果ですな』

 片眼鏡(モノクルというらしいです)についた羽飾りがふわりと揺れますね。歓迎されていないわけではないんですよね。お茶もお茶請けも美味しいです。

 一度か二度ひどいモノを出されましたが。

 一度はカップ状のパン生地に半円に盛り付けられた白と黒。ひとくちサイズだったのでぱくっといきましたよ。ぱくっと。

 あれはものすごく辛くて咽せました。まさにはじめての味でした。

 嫌がらせではなかったんだそうです。高価な香辛料を贅沢に味わうお料理だそうで。白い部分はお芋で(黄色くも赤くもないのにお芋だそうです)黒い部分が香辛料だそうです。ピリッと辛いんですよ。舌への刺激がつらかったです。中にちょっとひんやりした甘いものがあった気がするんですが、よくわからない常態で水で洗い流してたのであんまり覚えていません。

 ひとくちで食べるモノではないそうです。ひとくちサイズなのに!

 茹でたお芋と胡椒。中に仕込まれた肉は食肉用に飼育された猪。燻製肉の薄切りだったそうです。(歓迎はされてるっぽい)

 なんというか、ねっとり糸ひく甘さのプチケーキとか『流玄監獄』氏の出してくるお茶請けは極端に走り気味だったんですよね。

 わたあめは喜びますが、量はいらないみたいな気分になりますよね。私、素材の味好きですよ?

『箱庭をお出になるとか』

「学都にお勉強に行くのは有用ですよ」

『ええ。そうでしょうとも。ですがお気をつけを。姫君は実に、あまやかな言葉に騙されやすいのではないかと愚考してしまうのですよ。『偽造迷宮』が『月砂翠宮』を抑えているとはいえ、どれほどの時間が稼げるかは不明だというのに現状維持のまま離脱なさるとおっしゃる。箱庭の迷宮たちの成長で『偽造迷宮』を食い尽くした『月砂翠宮』を抑えていけるかどうかは不明でしょう』

 あー。出かける前になんとかしたいって言ってたものね。私が。

「不安がない訳じゃないけど、弟君が『偽造迷宮』にはいるしなぁ。何度か会話を試したけど、『大丈夫』って言うの。今は眠いけど、起きたらかんがえるって」

 まぁ、聞いててついなにが大丈夫なのか聞きたくなったけど、たぶん、信じて待つのが正解なんだろうなと思うんだよね。

「壊れた迷宮の『月砂翠宮』とあのトカゲ氏どっちが有利かはよくわからないけどね」

『……トカゲ……ですか?』

「そう羽を持った赤いトカゲ氏」

 肩乗りだけど本当はたぶんおっきいドラゴンさんって奴だよね?

 天職の声さん、トカゲ氏に対しては本当に無反応過ぎてお知り合いですかって聞きたい気持ちを押し殺すのが大変なんだよね。筒抜け不便。

『帝国領の迷宮主にそういう個体がおりますね』

「管理空間にゲスト招待したらおっさん声でびっくりした」

『……。あまり、契約外の迷宮関係者を管理空間に招待するものではありませんよ』

 え?

「『回遊海原』は引きずり込んできたよ?」

 まぁ『天上回廊』はタイミングの問題だったんだろうけど。

『それはおそらく『回遊海原』は管理者を欲しているのでは? いささか不穏さも含みそうですが』

「支配するための魔力を摂取して適当に拒否するつもりだったっぽいわ。私はずっとしないって意思表示してるのにムカつく!」

『支配するにはそれだけの魔力が必要ですし、魔力は多くを使うことで容量を増やし、運用の最適化が行われますからね。『迷宮』を支配するために適した魔力の流し方というものはありますよ』

 このあたりの話題は禁止条項に当たらないらしく、困らない会話を続けられます。

「流玄さんは魔力、足りてる? 人口増えた?」

 時々、流刑された人が流されてくるとは聞いているけど。

『人口は数名増えましたね』

 うっすら口角が上がる笑い方はワルイヒトっぽいです。

『流民が四名ほど。派閥抗争に敗れたと思われる皇女と侍女だそうです。あと、迷宮核に触れた愚者判定の罪人が三名でしょうか?』

 は?

「迷宮核に触れた罪人?」

『そうです。迷宮核に触れるにはその『力』を誇示し、迷宮核に至るまでに多くの魔力を迷宮に捧げねばなりません』

 あ。はいそうですね。

『それをせず、……つまり魔力を迷宮に捧げずに周囲に生け贄となる戦士を配し迷宮を攻略して迷宮核を支配しようとした愚かな罪人は資格無しとみなして迷宮がその意志をもって『監獄』に送る。その送り先が私『流玄監獄』なのです。武装所持品をすべて奪い、身一つで我が迷宮の中層階に放置されます。魔物はおりませんが、罠は敷いておりますから』

「他所の迷宮から?」

『はい。監獄ですから。彼らの所持品の一部は迷宮に返却し、ドロップアイテムや宝箱の中身になります。当監獄に譲られた物資現金も同様に扱われます。つまり、我が迷宮は財宝は多く魔物は少ない迷宮ですね』

 やっぱり食材は入り口付近に配置してあるそうですよ。

 宝箱には『長期保存堅パン』や『古い干し肉』『乾燥きのこ』が入っているのが第一階層らしいです。

 聞いていて不味そうと思った私は贅沢が身についてるんだろうなとちょっと思いました。

『よろしいですか。たとえ、その瞬間、それが正しいと行動したとして、それを起因に身の自由を気軽に刈り取られるような行動にはどうかご注意を願います』

 んー?

「当たり前では?」

 そのくらいわかってますよ?

『ものすっごく、気がかりですね』

 むちゃくちゃ失礼じゃありませんかね? 『流玄監獄』さんは!

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