第416話 まずは温泉ですね
「あー、ティカ嬢。父君に聞こえていると思うんだが?」
荷車の横を行く警備隊のお兄さんがちょっと気遣う感じで言ってきますよ。感動の出発かと思えばなんだかしょっぱい展開でしたものね。
「なにか問題が? 父さんも侮られないよう鍛えればいいんですよ。鍛えれば。そうしたらお客さんも美味しいもの食べれますし?」
なるほど。
「あー、たしかに迷宮に近い町で町中にも迷宮を抱えるティクサーなら今後食材が増えるだろうな」
「それにたまちゃんチだってそれほど遠いワケじゃないからものは流れてきますし、『蒼鱗樹海』の一階層の出入り口フロアをウロウロしている実力じゃ物を扱えないと思うんです」
「ま、今は出かけるより買ってきた食材で調理して売るのがまわってるしなぁ。オヤジさんの店は美味いから店は開いてて欲しいな」
「ありがとうございます。もし、父が迷宮に潜る時はご助力願います」
ティカちゃんがにこにこと警備隊のお兄さん達に頼んでいますよ。警備隊のお兄さん達はもちろんと快諾なさってましたね。そんな様子をルチルさんと眺めていたネア・マーカス十一歳。十一歳ですよ。
「休憩所でひと声かけてから迷宮よー」
荷車を操作しながらルチルさんが言います。ルチルさんの荷車は錬金術でつくった牽引魔獣を必要としない車なのです。自走車っていうやつです。まぁ、牽引している魔獣ぽいものはいますが作り物だそうです。すごいです。
たまに魔物に喧嘩売られるらしいですよ。なんていうか、荷車をひきたがる魔物というのが時々いるらしいです。タガネさんの荷馬車をひく魔物はたぶん、専属契約結んでそうですよね。
つまり、ルチルさんの荷馬車をひきたい魔物がいるってことらしいです。
「遠出するのですし、温泉の思い出もいいものだと思いますよ」
警備隊長さんがおだやかにおっしゃいますよ。
「その間に俺たちがひとっ走りして迷宮の安全確保してくるってワケさ」
……
つまり、出かける前に。
「葛を焼きはらえということですね」
温泉には大越を気にしないで迷宮に潜る冒険者の人達がそれなりにおられました。
「お、葛刈りちゃん、こっちもひと休憩してから後追いさせてもらうぜ」
などと似たよーなことを言われましたよ。
「ひとフロアくらい焼き尽くしてみればよいのでは?」
「……い、いやぁ、他の探索者のこともあるしよぅ。そこまでの火力は俺らじゃ出せんわ」
おじさまベテラン冒険者では?
「ベテラン冒険者が高火力能力者である必要はないのよ。それにワンフロア潰してしまう人物は警戒されるわよ」
え!?
「あの、ティカちゃん。私、……ネア、は?」
あ。露骨にしまったって表情!
私だってそのくらいわかるんだからね!
「ネアは、ちゃんと依頼の指定通りできるでしょう。ちゃんと」
なんで、自信なげになっていくんですか。ティカちゃん?
「もう。いいじゃない。基本的にネアが無体しないって私はわかってるんだから。ちょっと注意力が足りないだけで!」
ベテラン冒険者さん達が「注意力かぁ」とか呟いてますよ。
ティカちゃんはそこ開き直るのはどうかとネア思うんですけどぉ?
ティカちゃんのお父さんから渡された鞄はやはり荷物袋で昨日食堂に集まったいたお客さん達が素材提供してくれ、ルチルさん徹夜で作成した一品だそうです。ルチルさん、仮眠とった!?
自分で厳選した最低限の荷物(途中で増えることも考えた荷物袋の容量問題)より多く物が入り、遅延効果も少々ついている鞄だそうです。熟成が必要な調味料や早めに食べたほうがいい系の保存食を入れてくれているみたいでティカちゃんが黙って怒った表情でした。嬉しいんですね!
「大きめの服やくたびれた革靴とか他にも色々入ってるんだけど、不用品始末にも使われてるんじゃないの」
ツンツンした感じで言ってますが、ネアも学んでいるんですよ。照れ隠しですね!
「なににやにやしてるのよ。ネア」
「よかったですね! さすが看板娘ティカちゃんです」
ほっぺた引っ張るのやめてください。ティカちゃん。
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