第415話 聞こえているかもしれません
大越の十日。
十一歳になって昼の間はティカちゃんと教会にお手伝いに行き産まれたばかりの赤ちゃんたちをお世話する尼僧様やお姉さんたちを眺めながら「清浄をかけて頂戴」と言われたり、「あんた達『眠り』か『鎮静』は使える? 使えるなら頼みたいんだけど」と言われて疲れ過ぎて眠れない婦人にゆるめの『癒し』をかけたりしてお手伝いをしていましたよ。ええ。ティカちゃんはリネン類をばっさり預けられて「いっといで」って感じでしたが、私には「え。この子に頼んでかまわないのかしら?」という感じで言ってくるんですが、コレってどういうことですかね?
「私もティカちゃんと同じ十一歳なんですけど?」
って言えば、顔を見合わせて「わかってはいるんだけどねぇ。ほら、ちっこくてかわいらしいものだからね」って言ってくるんですよ。怒っていいですかね。とぷりぷりしているネア・マーカス十一歳になりたてですよ。
十日間全部をお手伝いしたわけではなく、四日目にはルチルさんが「明日、『蒼鱗樹海』経由で王都に向かうわよ! タガネちゃん今回はティクサーまで来ないらしいから。引率はワタシよぉ」とティカちゃんと私に言いにきたからですね。
お疲れ様と尼僧様やご婦人達に送り出されて、まずティカちゃんの自宅へ。独身冒険者の人達が呑みながらたむろっていてちょっとガラが悪い感じになってました。
大越の十日はおやすみにしている冒険者も多いので持ち寄り酒類をぶちまけて宴会になっているようです。
「今日もうちにお泊まりですね。ティカちゃん」
「そうね。寝れなさそうだし。あ! 母さん!」
忙しく立ち働くティカちゃんのお母さんをティカちゃんが呼びます。
すこし話してティカちゃんは店の奥に行き、ちょっとしてから出てきました。出発が明日になった報告をしているのでしょう。そういえば、お兄さんも一緒に来るんですか?
お父さんにも出発を報告し、お姉さんに注意事項をツラツラ言われて逃げてきたと言うティカちゃんですよ。
お土産にいくつか料理を渡されて私の荷物袋にそのまま入れます。時間停止効果があるので美味しいまま保存できますからね。
お兄さんしばらく家の手伝いをするらしく、ご一緒ではないとのことですよ。
その夜はマコモお母さんを宥めながら旅支度を確認し、美味しいごはんをたくさん食べて早めに寝ます。
明日の朝は早い時間に南門待ち合わせなのですから。
南門には警備隊のお兄さん達が送ってくれましたよ。
なんで、「え。縮んだ? ネア嬢」とか「きっと成長期はちゃんとくるから。……たぶん」とか口々に言われてるんですかネアは。
「成長速度は個人差が大きいですからね」
などとおっしゃる警備隊長さんが一番心に大ダメージですよ。
ジャクジャクと霜柱を踏み潰しながら歩く速度は私より早いです。(早々に片腕で抱き上げられましたよ。ティカちゃんは自力であるいているのに)
「体力がない訳、じゃないけど、ネアは歩く、の、遅いわよね」
喋りながら歩くには息の切れる速度のようですねティカちゃん。
「そりゃ、足の長さに差があるからなぁ」
警備隊のお兄さんがそんなこと言いますよ。
「ちゃんと十一歳ですよ。伸びなかったのは私のせいじゃないと思うのです」
まわりの空気がなまぬるい気がします。
迷宮途中まで同伴するという警備隊のお兄さん達が笑っていましたよ。ちょっとムカつく。
南門にはルチルさんの荷車とティカちゃんのお父さんが待っていました。
「え。父さん?」
なんでいるの。って言いそうなティカちゃんですよ。
「怪我も病気もせずに帰ってこいよ」
わしりとティカちゃんの頭を撫でてちょっと地味な感じの肩掛け鞄を押しつけているおじさんです。
私はマコモお母さんがごねそうなので自宅で「いってきます」しましたよ。
鞄を見て、おじさんを見て、ティカちゃんはきゅっと鞄の紐を握ります。
「もちろんだわ。たくさん学んで実力をつけて帰ってくるんだから、ちゃんとお店繁盛させておいてよね」
「ったりまえだ。キリキリ行ってこい」
「ん! いってきます!」
「ネアも怪我しないようにな。元気に帰ってこい」
「美味しい素材たくさんとってくるね! いってきます!」
「ぉ、おう。いってこい」
にこにこしてるルチルさんが「早く乗って〜」と呼ぶので私達はそちらに駆け寄ります。
さぁ、出発です。
「あのね、ネア」
「なんですか。ティカちゃん」
「迷宮の素材は魔力酔い起こしやすいんだから無茶なもの持ってきてウチを破産させたら怒るからね」
それまでにティクサーに住む人達の基礎魔力が上がっているという希望的予測は?
「調理だって難易度上がるんだからね!」
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