第409話 よい男は警戒度が高いんです
血のつながりだけが家族のカタチじゃないとは思いますが、血のつながりも大事で正直言って私や弟くんは本来異物ですからねぇ。
マコモお母さんとグレックお父さんがうまくいくよう応援したのはネアですけどね。他の要因が出てきた時に正しい行動とか判別つきませんし。
今日が初対面でしたし、胡散臭さしか感じられませんよね。つまり、むこうは知っていて黙って観察していたってことでしょうしね。
好感を抱く理由は弱い者を守る在り方でしょうか? 立場のある方ならそうあって欲しいものですよね。
だいたい、外面とか世間体とかもありますからね。
憧れられる騎士様であるなら尚更でしょう。
かつて、『私』の許嫁だった方もそれはもう周囲から憧れられている方で。不足しかない『私』の許嫁であることをそれはもう同情されていたものでした。
あ。
思い出したら吐き気が込み上げてきますね。
あの頃、『私』はそれを『私』が悪いと信じていたんですよね。だって、誰もそれを否定せずそれが正しいと言われ続けていましたから。
【それは、あの、その男に問題があったのでは?】
ええ。
異界に紛れ込んで死にかけた先で出会った上司様が『許嫁ヤろうとするクズに気をかけるだけ無駄。復讐したいなら別枠』とおっしゃっていましたし、いろいろ支えていただいてちょっとは変われたんだと思うんですけど、どうも、あのタイプ駄目みたいですね。私。
もちろん、グレックお父さんのお父さんが表面だけの最低野郎なのか、心底尊敬にあたいする方なのかと判断するには情報が足りていないのは事実ですよね。妙な反感を持ってしまったことを反省しましょう。
アッファスお兄ちゃんやティカちゃんとこのお兄さんとかルチルさんとかにはそんな感情抱かなかったんですけどね。
……。
トルファームの男の子は初対面印象最悪でしたね。そういえば。誤解、だったっぽいですが。
最初の印象悪い方があとは良くなるだけですよね!
【……クズはクズですから。妙な温情は仇にしかなりませんよ】
えっと。
私が甘い。と?
まぁ、よく言われてはいましたが。見通しが甘いと。
【ならば!】
それは失敗に繋がるけれど、悪いことばかりではなく、その道でしか得られないものもあると、教えてもらったんですよ。
どの選びが正しいかはわからないから。
どう選んでも後悔はついてくるから。
その時の自分を信じればいいって。
言われたんですよね。
ひとつの意見に傾倒することは危険だとも言われましたが。
「サーシオンさんは騎士様を信じてらっしゃるんでしょうが、私今日お会いしたばかりでティクサーやクノシーの警備隊の人達ほどに信じる要因を感じていないだけですから。少なくとも、グレックお父さんが一度もおはなしすることがなかった。その理由があると思うのです」
それに。
「グレックお父さんの妹さんというあのひと、マコモお母さんの事を『下げる』意味で、蔑称として『女狐』と呼んだんですよ? マコモお母さんは狐の獣人ですが、それだけの意味以外のものを含んでいたと思うのです。それにマオちゃんも狐の獣人ですが、あのひと、マオちゃんのコトもそう呼ぶんでしょうか? あのひと、騎士様はそれにどう対応なされるんでしょうか?」
そこがわからないんですよね。
冒険者のお兄さんたちの中にも獣人さんたちを見下したり、嫌ったりする傾向はありますからね。
「んー。アレお兄ちゃん大好き拗らせ妹が兄を奪った女にヒス起こしてる系でしょ。そこのかわいい仔狐ちゃんはお兄ちゃんの娘と見るか、ドロボーね、ぎつねの娘とみるかで変わりそ」
テリハさんが冷めた串焼き肉をパン生地に挟みながらそんな事をおっしゃいますよ。
「マコモお母さんは、状況がアレならたぶん、グレックお父さんを捨てるのに躊躇わないヒトですよ」
そしてグレックお父さんが泣いて縋るんですよ。知ってます。
そんなグレックお父さんの執着はこわいですが、マコモお母さんからの私への執着心もたいがいなので似たもの夫婦だなとは思っているんですよね。
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