第406話 『天水峡連』再び

『天水峡連』の一階層は雪原地帯です。

 今回『天水峡連』の入り口扉が押し扉であることを考慮して熱風で押しあけました。同行してくれている騎士様がちょっと眉間に皺を入れていたのは見なかったことにしたネア・マーカスですよ。

 階段上に冷気が届かなければ温水攻撃もないでしょう。

「町の外と変わらず寒いですね」

 騎士見習いだというお兄さんが閉まっていく扉を見ながら言葉をこぼします。

「気を緩めることのないように」

 初老の騎士様が見習いのお兄さん(サーシオンさんというそうです)に注意しています。

「はい!」

 騎士様有名な方らしいです。

 お兄さんが『憧れてます!』とばかりにキラキラしてますからね。

 地下水道の歩き方やニートくんたちの対処方法などこれから『天水峡連』に対応することになる騎士団の方々に伝達するのが今回の企画だそうです。

 ソールカーナンさんに部下をつける話も一応上がっているそうです。地下水道内を管理する事業と騎士団は分けるべきという考えだそうですよ。

 わからないでもないです。

 騎士様がおっしゃるには『天水峡連』に挑戦するにはまず環境変化耐性が一定以上高くないと無理らしく、『蒼鱗樹海』で王都ティクサーを移動できるくらいの基礎力を持つ者というのが最低基準になるだろうとおっしゃってました。冷えますしね。体力はガンガン削られていきますよね。

 氷の大地がひび割れている場所があるんですが、二階層への扉はこの割れ目の底で氷蜥蜴が番人をしているそうです。

 ひび割れの底なんて見えませんけどね!

 雪蜥蜴が粉雪吹雪散らして視界を悪くしているだけじゃなさそうですよ。

『蒼鱗樹海』と同じ広さで、その上、一階層のくせに三層分くらいありそうなのがタチ悪くありませんか? 天水ちゃん。

「飛び降りるのはネアには危険ですね」

「あー、私、テリハにもキツイですー。ケイトさんとヒルトさんはぁ?」

「そうですね。行けなくはないでしょうが、マシそうな場所を探したいですね」

 ヒョイッと氷の亀裂を見下ろし、様子を見つつ答えるケイトさん、……行けるんだ。すごい。

「この亀裂、降りている途中で塞がらない保証がありませんからね。氷のトカゲもいるならそれが門番ボスだけとも限りませんし」

 危険でしょう。としめるケイトさんですよ。

「ネアさんは一階層の入り口から出口までをウロウロする許可だけが出てますからね。危ない場所に行こうとしちゃいけないんですよ」

 にこりと釘を挿されました。

 そうですねぇ。雪蜥蜴はいろいろ不器用さんみたいですが液体を凍らせることはできますし、武器の端にまとわりつかせた雪粒を増やして凍らせて動きを鈍らせてきたりもしますよね。そこを雪狼が襲いにくるのでなかなか大変は大変なんですよ。

 雪蜥蜴は大福餅をドロップする他にも『雪蜥蜴のオモイデ』と鑑定される鱗状の板チョコ(白)もドロップします。ちなみにめちゃくちゃ溶けやすいですよ。

 雪狼は毛皮と牙、肉饅頭がドロップします。白いふこっとした生地の中にぎゅうと包まれた肉と肉汁。あれもしあわせの味。

 雪蜥蜴は『冷風』のギフトスキルが。雪狼からは『凍結』『耐冷』のギフトスキルがドロップしますよ。

 そう、『耐冷』スキルがモノにできるとこの迷宮で行動しやすくなる仕組みですね。

 氷蜥蜴には遭遇していないので、ドロップ品は不明です。

 スライムは……いるはずですが、見当たりませんね。

 あと、探すべきは採集ポイントですよ!

 私とテリハさんがものすごくキョロキョロうろうろしていますよ。ええ。

 そして見つけた採集ポイント。

 氷壁を杖でガンガン殴ったところ、ぼろりと氷の塊が剥離。『氷壁のカケラ』夏期の暑さの中でも溶けることのない氷。火にかければ溶ける。という氷がドロップしました。

「氷」

「氷ですね」

「待って。夏の期にもこの氷が採集できるなら価値は一応あるわ。普通の荷物袋に入れても溶けないし、食品の保存革命になる筈ぅ!」

「まぁ、氷室を個人所有しているのは貴族か豪商一部職人だろうからなぁ」

 きゃっきゃと喜ぶテリハさんを見ながら騎士様がそんな感想ですね。

「ところで、一般冒険者に開放される予定は?」

 コレは私の疑問です。

「ないだろうな」

 騎士様が迷わずおっしゃいました。

 ソールカーナンさんとケイトさんは「そうでしょうね」とさらっと流してらっしゃいますが、テリハさんは予想外だったのか「そんなぁああ」と叫んでらっしゃいますよ。

「あ、テリハさんが入る分には同行許可おりるのでは?」

 ソールカーナンさんが一緒とか、騎士様たちと一緒とか。

「そうですよ。お三方には特別に許可がおりるはずですよ」

 にこっとサーシオンお兄さんがおっしゃいます。

 あれ?

 私も?

「貴婦人方が是非に甘味を美味しく確保して欲しいとおっしゃってらして」

「それ! 大金もらえるけど、私が食べられないヤツぅうう」

 あー、氷とかもまず王城で買い上げられそうですねぇ。

 市場にあんまり出回らない予定ですかぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る